世界猫またぎ｜リアクション

世界猫またぎ

【夢に向かって──落合まゆらの場合】

　早朝の寝子島。今日も水分さんは大ハリキリみたいですよ。
「旧市街に行く前に、寝子ヶ浜海岸に寄ってみようか。あそこにも猫、いるみたいだよ」
　というわけで、ふらりと海岸へ向かいます。
　この季節、もちろん海水浴客はいないけれど、人もまばらで落ち着いたビーチというのも、これはこれで風情がありますよね。
「お。あの子、何してるのかな」
　なにやら気になったようで、水分さんはすぐさまカメラを構えます。

「おはよー、子猫ちゃんたち！」
　朝のジョギング帰り、ってところかな。長い髪をツインテールにした快活そうな女の子が、子猫たちと遊んであげているみたい。お互い、顔見知りかしら？
　水分さんにはまだ、気づいてないみたいですね。
「うん、シャッターチャンスだ」
　カメラを意識しない自然な表情と、子猫たちのあどけなさ。水分さんは特に、こういった画が好きみたいね。
「みんな、今日も元気だね。いい子にしてた？」
　みいみい鳴いて、かーわいい。なにかおねだりしてるみたい？
「ここは寒いね。別のところにいこっか」
　女の子が歩き出すと、子猫たちもとことことこ。なんだか、カルガモの親子みたい。
　水分さんもカメラを構えて、そろりそろり。ときおり、ぱしゃり。
「学校の前に、杜の湯で朝風呂でも入ろうかなと思ってたところだけど……まっ、後でもいっか」
　あ、女の子はコンビニに入っちゃった。
　子猫ちゃんたちは、大人しく待ってるのね。かしこいかしこい。
　女の子が戻ってくるまで、水分さんは子猫ちゃんだけじゃなくて、ここから見える島の風景や、空をぱしゃり。まだ朝焼けの残る、ぼんやりオレンジの光に家々や樹々が照らされて……道の向こうまで、金色に光ってる。
　なんて綺麗なんだろう。
「時間を忘れて、見入っちゃうね」
　シャッター音が止まらない水分さん。
　素敵な風景。そこに佇む猫たち。水分さんの愛するものがたくさん詰まった、まるで宝石箱みたいな島なんですね。

「あ。出てきたね、あの子」
　しばらく待っていたら、コンビニから女の子、出てきましたね。手に提げた袋には……あ、子猫たちには分かってるみたい。一生懸命みいみい鳴いて、ちょうだいちょうだい！　っておねだりしてる。
「みんなでいい子で待っててえらいね。ほーら、お待ちかね」
　うん、やっぱり猫のごはんだ。
　みいみいみい！　はやくはやく！　はやくちょうだい！　なーんて。
「あはは、待って待って！　今日はちょっと奮発したのよ。こっちがカツオで、こっちがマグロで……味わって食べてね？」
　蓋を開けてお皿に盛ってあげたとたん、うわあ。すごい勢い。お腹減ってたんだね。
　あの子はいつも、ここでこうしているのかな。子猫たちを見守りながら、とっても優しい笑顔。愛情注いでるのね。
「どう、美味しい？　そっか。安売りしてたから買ったけど、声優の卵にはちょっとお高い価格設定よね……」
　へえ、声優志望なんだ！　確かに鈴が鳴るような、すっごく綺麗な声。
　そっか、未来の声優さんなんだね。
「夢が叶うといいねえ」
　水分さんだって応援してくれてますよ！
　ごはんを食べてお腹いっぱいになった子猫たちは、さっそくころんと転がって、おねむみたい。
　あ、でも、女の子が立ち上がったら、一斉に起きちゃった！
「あたしそろそろ、杜の湯に行かなきゃ。学校の前にさっぱりしたいしね」
　声優さんだって、結構体力使うのよねきっと。だから朝からジョギングをして、身体を鍛えて、汗を流してから学校へ……頑張り屋さんなんだ。
「あの猫たちとのふれあいは、あの子にとってきっと必要なことなんだろうね」
　水分さん、素敵な横顔をぱしゃり。
　うんうん。だって夢を叶えるって、大変なことだもの。かわいらしい猫ちゃんたちとのひと時が、きっとそのためのパワーになってるのね。
「それじゃ、あたし行くね。またね、子猫ちゃんたち」
　名残惜しげに鳴く猫ちゃんたちを振り切って、さっそうと歩いていく女の子。う～ん、絵になるなぁ。
「さ、次は旧市街だね。行こうか」
　最後に一枚、銭湯ののれんの向こうに消えていく女の子の背中を撮って、水分さんも歩き出します。
　きっと彼女、後でびっくりしちゃうかもね。お友だちに、「ねえ、昨日『世界猫またぎ』に出てたよ！　すごいじゃん！」なーんて。
　夢が叶うように、頑張れるように、『猫またぎ』と水分さんも応援してるからね！

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