シーサイドイルミネーションパレード！｜リアクション

シーサイドイルミネーションパレード！

◆
　クリスマスが過ぎてすぐ、ある日のシーサイドタウン。
　イルミネーションの灯る宵待ちの通りを、八神修は七夜あおいと並んで歩いていた。
「修君、ちょっとあそこのお店寄ってもいい？」
「もちろん」
　そんなやりとりをしつつ入ったのは、女性向けのかわいい小物のお店。所狭しと並ぶアクセサリーから雑貨は、季節柄か雪をモチーフしたデザインが多い。
「修君見てみて、これすっごく可愛い！」
　振り向けば、ヘアピンを手にしたあおいの姿。白くて丸い雪うさぎのような飾りがついていて、たしかに可愛い。
「ああ、すごく可愛いな。あおいにもよく似合いそうだ」
「そうかな？」
　髪の位置までヘアピンを持っていきながら、「どう？」とあおい。
　小首をかしげて見上げる仕草にきゅんとしてしまい、修は思わず口元をおさえた。
「うん、似合ってる」
　隠した口元が緩んでいるのは、言うまでもない。
　
　出店をまわっているうちに、とっぷりと陽は暮れて。
　本格的にイルミネーションが灯りだした街を、オープンバスのパレードが行進し始める。
「あおい、マンボウ君がこっち見たよ」
「あ、ほんとだ！　おーい、マンボウくーん！」
　オープンバスからヒレを振るマンボウ君に、二人並んで手を振り返す。
　すると、オープンバスに居る他のゆるキャラたちが、パラリパラリと何かを投げてきた。
「おっと」
　手を伸ばしてキャッチしてみると、色とりどりの包みに入ったアメ玉だった。
　あおいは取れただろうかと見やると、上着のフードに手を突っ込んで何やらゴソゴソやっている。
「どうした？」
「フードに入っちゃったみたいで。取ってもらっていい？」
「お安い御用さ」
　くすっと小さな笑みを返して、アメ玉を取ってあげる修。
　もらったアメ玉は、もちろん二人で食べることにした。
「あ、いちご味だ。修君のは？」
　何気なくおあいの方を見た修は、
「俺のは……コーラかな、こっ」
　まだほとんど固形のアメを危うく飲み込みかけた。
「どうしたの？」
「いや、なんでもない」　
　覗き込んでくるあおいを手で制しながら、さっと一瞥。
　あおいの服が、なんの前触れもなくサンタコスっぽい衣装にかわっていた。
　赤を基調にしたワンピースタイプで、袖や裾には雪を思わす白のレース。ゆったりと長めに広がる裾は、どこかドレスのようにも思える。
　しかも髪はいつものツインテールからストレートになっていて、これがまた。
　つまり、とにかく可愛かった。　
　可愛さの不意打ちに心が昇天しかけ、それで危うくアメ玉をつまらせかけたというわけだ。
　そんな彼に、「修君ってさ」とあおい。
「普段、誰かに甘えたりすることってある？」
「俺は……」
　ちらりと周囲に視線を向ければ、カップルたちがやけに甘えた雰囲気でイチャついていた。
　あおいが突然こんなことを聞いたのは、そのせいなのだろうか。
「……甘えが許される家庭じゃないから」
　答えた声は、少しさめたトーンだったかもしれない。
「そっか」
　返す声も、少しトーンは低く。
　イルミネーションに併せて流れていた音楽が、一時止まる。
　切り替わりのタイミングなのだろう。二人の間にも、一時の静けさ。
　そして、新しい曲が流れ出す。
「それじゃあ、私に甘えてみる？」
　覗きこむようにして笑うあおいは、いつもよりお姉さんに見えた。
　思いもよらない不意打ちに、修もさすがに頬が熱くなる。
　ややあって、
「――なんてね？」
　いたずらっぽくウィンクひとつ。
　そんな彼女に、修は白旗を上げるような調子で肩をすくめる。
「……かなわないや」
　
　深まっていく宵の中、二人はしばし笑いあっていた。

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