長靴を履いた猫の温泉｜リアクション

長靴を履いた猫の温泉

　三宅葉月は良くスケッチをしに出かける。今日も冬の九夜山をスケッチする為に出かけていたのだが、どこか良いところがないかと探す内に見覚えのないトンネルを発見した。
　葉月の記憶に存在しないトンネル。普通であれば気味が悪くて敬遠しその場を離れるだろう。しかし、葉月は戸惑う様子を見せる事もなく、ゆっくりトンネルの中へと足を進めた。
　もし何も知らない人がその光景を見ていたら、葉月の独特な雰囲気から彼女を森の精霊と勘違いしてしまうかもしれない。それ程までにその歩みは自由気ままなものに見えた。

「ここは……」

　暗いトンネルに怯える事なく真っすぐに進み通り抜けた先は、太陽でなく月が輝く夜。辺りに見える木には色取り取りの花が咲いているようだ。
　奥にそびえ立つのは温泉旅館らしい建物だが随分と大きい。しかし、それ以上に葉月が気になっているのは旅館までに続く道に出ている出店の店員をしている長靴をはいた大きな猫だ。出店はかなりの数あるが、その全てにいる。

「おや、どうかしましたかニャア？」

　すると、立ち止まっている葉月を戸惑っているとでも思ったのか一匹の長靴をはいた猫が話しかけて来た。

「いえ。私はトンネルを通ってきたらここに着いたのだけど、ここは何？」
「ここは我々の種族がやっている温泉地ですニャア。見ての通り出店と奥で温泉に入れる旅館を経営させて貰ってるんですニャア」
「温泉……」

　それを聞いて思わず葉月は温かいお湯に包まれる自らを想像してしまう。
　冬の山歩きに相応しい恰好をしてここまで来ているとは言え、それでも冬の山は葉月に冷たさを与えており、身体の芯から冷えてしまっている。
　教えてくれた長靴をはいた猫に礼を言ってから葉月は温泉旅館を目指す事にしたようだ。何はともあれまずは暖をとってからという事だろう。

「はぁぁ……」

　熱い温泉に足から入れば思わず蠱惑的な吐息が葉月の口から漏れる。
　最初に浸かった足から上へ上へと熱が昇っていく。冷え切っていた身体にじんわりと広がる温かさ。それを感じる度に全身に何とも言えない快感が走り、赤みが差した自らの身体が振るえるのを葉月は自覚していた。

　借りた個人用の露天風呂の縁にもたれ掛かりながら夜空を見上げる。あぁ、夜空はこんなにも綺麗なものだっただろうかと考えている内に思わず葉月はうとうとしていた。
　うとうとしてしまう程に自分は疲れていたのだろうかと葉月は考えるが、この温泉がそれ程までに心地良いものなのかもしれないとも思った。
　こうして折角温泉に入ったのだから、今暫くこの心地良さに浸っておこう。葉月はそんな風に思いながら目を閉じる。

　温泉から上がって折角だからと用意されていた浴衣に袖を通した葉月は、適当に屋台を巡っていたのだがそこで思わぬ出会いをする。

「浴衣姿の三宅さん、だと！？」

　浴衣を着た葉月を前にしてそんな風に叫ぶ遠藤健。そう、何故か健もこの温泉地に来ていたようだ。

「そんなに驚く事？」
「三宅さんと言えばゴシック。そんな認識ができる程度にはゴシック姿を見慣れているからね！　それ故にそれ以外の姿はレアと言える。しかし！　では、浴衣は三宅さんに似合わないのかと言えばそれは断じて違う！　アンニュイでミステリアスな黒髪美人でスタイルも素晴らしい三宅さんと浴衣の組み合わせは良いの一言。後姿なんて完璧！」
「……そう」

　まさかそこまでの熱量で語られるとは思っていなかったのか、葉月にしては珍しく僅かながらに感情の揺らぎが見えたのは気のせいだろうか。

「……私、これから一緒に屋台を回るのだけどあなたもどう？　射的とかもあるようだから勝負したいのだけど」

　気を取り直すように葉月はそう口にする。屋台にはゲーム系もあってどうしようかと考えていたところに健が現れたので丁度良いとばかりに誘いをかけてみたようだ。

「ほう。屋台の天才とまで言われたこの俺に挑むとは！」
「日本語としておかしくないかしら、それ」

　そして、射的を始めとしてゲーム系の屋台を回っていく二人。

「あぁ、違う違う。射的の構え方はこうやって……こんな感じさ。どうだいこの脅威の命中率」
「当たったわ」
「お、良いね。……って、結構当ててる！？」

「ふむ……」
「何故、そんな脱力した適当な投げ方でどんどん成功するんだ……」

「このままでは負けてしまう！　うぉおおおおお」
「あなた、若干うるさい」

　こうして次々と勝負していった結果。

「もぐもぐ……」
「ウゴゴゴゴ、馬鹿なぁ」

　勝利の対価として屋台の食べ物を得た葉月と悔しがる健の姿があったりする。

このページにイラストを設定する

長靴を履いた猫の温泉

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧