秋の青空、きらめく流れ星｜リアクション

秋の青空、きらめく流れ星

　たっぷり90分ほど海の幸を堪能したティオレは、満ち足りた気分でぶらぶらと歩いていた。
　腹ごなしの散策が、星ヶ丘へと差し掛かったところで。
「そんな、お待ちになって！　お願いですわ～！！」
「あっ、そこの人お願い捕まえてー！」
　背後からの声に振り向くと、ティオレの顔にびたっ、と何かが張りついた。
「な、なんだいこれは……」
　顔に張り付いたものをはがすと、そこには『ステッラ・デ・コリーナでスイーツビュッフェ開催！　食べ放題が今ならお得30％OFF！』と書かれてある。いわゆる割引券だ。
「あ、ありがとうございます！　アイオの割引券、無くしてしまうところでしたわ」
「良かったわね、アイオちゃん」
「どういたしまして」
　灰色の髪を縦ロールにした少女と眼鏡の女性が、ぺこりと頭を下げたので、割引券を手渡す。

　ティオレはふと、そこで考えた。海鮮もいい感じにこなれてきた所である。ここいらで甘い物としゃれこむのもいいかと、配布場所を教えて貰って割引券をゲットした。
「私はティオレ・ユリウェイスだ。あんたらは？」
「アイオ・キャンドライトですわ。こちらの久保田さんとは券を貰うときに仲良くなりまして、ご一緒することになりましたの」
「久保田美和です。寝子島高校の先生やってますー♪」
　３人は互いに自己紹介し合い、連れだってスイーツビュッフェに行く次第となった。

◆

「あそこに品物が並んでいるようだが、自由に取っていいんだな」
　会場となるホテルに到着すると、かなり賑わっている。美和は握り拳で力説した。
「そうよ！　食べ放題は戦場なの！」
「せ、戦場……ですの？」
「さー２人とも、行くわよーッ！」
　まずはティオレが人数分の皿を確保し、配る。美和はスイーツが並べられたテーブルをざっと見渡して品定めだ。
「いい？　食べ放題はペース配分が大切よ。まずは爽やかなゼリー系から行きましょう」
「は、はいですわ！」
　向かった３人の前にはいちご、パイン、キウイ、ぶどうのゼリーがお目見えだ。美和は皆の皿に素早く２種類ずつ乗せ、「分け合って食べましょう？」とウインク。
「おい、あれもゼリーか？」
「あら、パンナコッタとムースね。あれをゲットしたら一旦離れましょ」
　戦利品を得た３人はスイーツ周りから離れ、静かな壁際で味わうことに。立食形式だが、小さなテーブルはあるのだ。
「このパンナコッタ、いちじくの上に黒こしょうがかかってますわ！　ぴりっとして面白いです」
「透明な器に涼しげなゼリー……ぶどうの果汁がたまらないわぁ」
「ムースって軽そうに見えて、結構食べ応えあるな」
　わいわい言いながらシェアして食べ終える３人。いざ次の出陣だ。
「一番アイオ、パウンドケーキ行ってきます！」
「私はあそこのタルト制覇しとくわ」
「じゃ、私は飲み物にしようかな……２人とも冷たいものにする？　温かいものがいい？」
　美和に温かいコーヒーと紅茶を頼み、アイオとティオレは歩き出した。

◆

　その後も３人は、それぞれ分担してスイーツの戦場へと出陣した。
　ある時は、茶色のチョコと白の粉糖が美しいガトーショコラ。
　またある時は、抹茶の緑冴えるシフォンケーキに、たっぷりのクリームが添えられたもの。
　そして、コーヒーとクリームチーズの重なりが美しいティラミス。
「そう言えば、ティオレちゃんってお酒飲める人？」
「いや、私はちょっと苦手でね」
「分かった。じゃ、ラムレーズンのアイスはやめとく……あー！」
「どうなさいましたの？」
　美和の眉間にしわが寄ったのを見て、アイオは心配になって声をかけた。
「アイオちゃん……そのー、昔私を振った男がラムレーズン好きだったなーとか思い出しちゃってさー」
「そりゃあ、災難だったね」
「部屋が汚いからサヨナラなんだってさ！　私だって人を招くんだからちゃんと綺麗にしといたわよ！　ただ……ちょっと掃除が苦手なだけなのに」
　しょんぼりする美和の肩を、ぽんぽんとティオレは叩いた。
「まぁ……なんだ。誰にだって苦手なモノくらいあるさ。美和は気遣いの出来るいい奴だと思うけどね」
「ティオレちゃん、ありがとぉ～！　ねぇちょっともう、聞いてよー」
　その後は、スイーツを食べながら美和の失恋話が続く。
　ティオレは（ネコジマの男ってやつは細かいんだねぇ）と思い、アイオは（人生って深いですわ）と紅茶を味わった。
　話を聞いてもらったからなのか、美和は積極的にスイーツを取りに行ってくれ、残る２人は思う存分味わうことが出来たのだった。

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