はちゃめちゃ！おもちゃ大暴走！｜リアクション

はちゃめちゃ！おもちゃ大暴走！

●走り込み中の出来事

　羽生碧南は最後の授業を聞き終えると、大きく伸びをした。

「今日は部活休みだっけ」

　予定を確認して、外を見る。空は晴れていて、雨が降る様子も無い。
　碧南は自主練習で走り込みをしようと考え、教室を出た。

　寝子島高校のジャージに着替えて、スニーカーを履く。軽くストレッチをしてから、ゆっくり走り出した。

（寝子高から神社まで行って、そこから耳福池を周回しようかな……）

　これから走るコースをイメージしながらペースを上げる。見慣れた景色を眺めながら寝子島神社へ。
　そこから耳福池へ向かうと、とんでもない事態に出くわした。

「おりゃあ！」

（熊吉先生？）

　池のほとりに吉田熊吉先生の姿があった。
　それ自体はとんでもない事態、というわけではない。その正面にいる、侍の姿をした輩と戦っていることに驚いた。

（いったいなんだろう……？）

　その正体を確かめようと近くに寄ってみると、侍のように見えたのはフィギュアだった。しかし背丈がそれなりに高く、等身大の人形みたいだと碧南は思った。
　侍は手にした刀で斬りかかり、先生がそれを避けながら反撃を試みる。しかし侍の身のこなしが軽く、先生の張り手が当たらない。

（どうなってんの！？）

　碧南は状況をいまいち飲み込めずにいた。
　しかしこのままでは先生が斬られてしまいかねない。そう思った彼女は、その辺に落ちていた棒切れを手にして侍の背後に接近する。

　ここは戦場――バスケットのコートに立ったつもりで、心を『戦う女』のそれに変える。

　眼前の攻防を把握する為に意識を集中し、気配を消してさらに距離を詰める。

「おおおお！」
「はあっ！」

　熊吉先生と侍は碧南に気づくことなく、戦いを続けている。

（これでやっつけられるとも思えないけど、少なくとも気をそらすことはできるはず……！）

　２人が距離をとったそのとき、碧南は侍の背後から突如姿を現し、強かに棒切れを振り下ろす。侍は咄嗟に反応して、振り下ろされた棒切れを避けた。

（避けられた……このまま棒切れで対処するのも難しいかな……）

　先生も突然碧南が出現したことに驚いていたが、すぐに侍に視線を向ける。侍は２対１になっても冷静に戦況を分析しているように見える。
　碧南は自分の武器を構えなおすと侍に向かって走る。

（あくまで引き付けることを念頭に）

　倒すのではなく、注意をこちらに向けさせる。
　その目的にしたがって短い間隔で何度も方向を変えながら、攻撃と回避を繰り返す。碧南の棒切れは当たらないが、侍の刀も碧南に当たらない。この攻防の隙を突いて、先生が一気に踏み込む。

「おおおおお！！」

　ようやくお得意の張り手が侍の肩を捉えた。
　真横から肩を押された侍はその勢いに耐えられず、体ごと押し飛ばされた。それでも倒れずに、体勢を立て直そうとする。そこで碧南が追撃する。防ごうと構えたところで、先生の張り手が再び炸裂する。

「ぐっ！」

　短いうめき声をあげて、侍の体は地面から浮き、仰向けに倒れた。少しの間、全員の動きが止まる。

（倒した、のかな？）

　碧南が疑問に思っていると、侍がゆっくりと体を起こした。思わず碧南と先生が身構える。

「拙者の負けでござる。潔く退散するとしよう」

　そういうと、風に紛れるようにどこかへ消えてしまった。

「勝った……んですよね？」
「……おう」

　改めて勝利を確信すると、先生と２人で喜びを分かち合った。

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