秘密を守れ！｜リアクション

秘密を守れ！

◆壮絶なる戦い

　水平線からは太陽が顔を出し、人々を暖かく照らしていた。夜が明けたばかりの寝子ヶ浜海岸では落合まゆらが伸びをして海を眺めている。早朝のトレーニングを終え休憩中だった彼女の脳裏にふと、昔の記憶が過ぎる。

「懐かしい……」

　『魔法少女ミスティックアリア』――彼女の転機となった作品のコスプレをするのが、彼女のネコミケであった。その衣装を作った時――余った布切れで衣装を作った。少ない資材で作るのだから当然のことながら布面積は小さくなる。そのせいで、悪の組織の女幹部が着るようなやけに露出度の高い衣装が出来上がったのだった。

「どうしてこんな記憶……今考えてみてもあまりに凄まじすぎたけど」

　一度着た後封印したあの衣装、今はどこにあるのか……そんなことを考えながらまゆらは海から離れ帰路に着く……はずだったが、目の前の光景に足が止まった。

「ちょ、ちょ、ちょっと、そこの変態な衣装を着ているあた……というか、あなた！　なに考えてるの！？」
「あたし？」

　そこに居たのはその衣装を身に纏ったまゆらであった。否、まゆらにそっくりな少女であった。少女は自らの肉体をこれでもかとアピールしている……。

「別にいいでしょ？」
「う、うー……」

　反論できずに口ごもるまゆらに微笑みつつ、彼女は逃げ出した。茫然としていたまゆらだったが、夏の惨状を思い出して彼女を追いかける。

（って、ダメ！　このままだとＳＮＳに拡散されちゃう！）

　幸い、まだここは人気の余りない海岸だ。しかしこのままだと少女が街に繰り出すのは目に見えている。

「待って！　待ちなさい！」
「待たなーい」

　砂浜に二人の足跡が刻まれていく。少女は時折振り返ってまゆらに挑発的な笑みを見せた。

「ふふふ、捕まえてごらんなさい」
「ふざけないで！」

　それを見てもまゆらは魅入られることなく、ただ彼女を捕まえることに一生懸命であった。二人の距離は縮まず数分、もうだめかとまゆらが考え始めた頃、目の前の少女が砂に足を取られ転倒した。

「勝った……！」

　そのチャンスを逃すまゆらではない。まゆらは少女が起き上がる前に拘束し、こう宣言するのであった。

「今日は一日家にいてもらうわ！」

　かくして、彼女たちの戦いは終わった。
　でも、神魂はいつでも蘇る。誰かの密やかな楽しみ。守るべき秘密。そしてそれを守る誰にも語られない戦い――それは今もどこかで起こっている、のかも？

このページにイラストを設定する