寝子中の文化祭を盛り上げろ！｜リアクション

寝子中の文化祭を盛り上げろ！

　そして、『ちゅー祭』当日の朝。
　たまたま早く来た篠原翠響は、３年４組の教室がいつもと違う様子なのに気づきました。
「あれ？　今日文化祭だったんだ」
　そんな間の抜けた言葉に、クラスメイトの慎之介は信じられない！　という様子でオーバーアクションしています。
　「オーマイガー！　知らなかったのか？　今日こそはと呼び止めようとしても、いつも気がつくとランナウェイしてるから説明できなかったぜ！　今年の文化祭は一味違うんだ！」
　翠響の場合、間近に迫った全日本ジュニア選手権（中学最後の大会でもある）を控えて、日々練習に余念がなかったのです。
　１、２年の時の「学習発表会主体」の文化祭に慣れていまいち興味が持てなかったせいもあるけれど、文化祭についてはどこか他人事の印象しかありませんでした。

　実行委員の慎之介が呼びとめようとしていたことに、放課後はさっさと教室を出て練習のため寝子島スポーツセンターへ行ってしまう翠響は、まったく気づけなかったのでした。
「時間がない！　レッツシング！　サビの部分だけでも覚えて！」
　そういえば机の中に何か冊子が入っていたな、と取り出してみれば、楽譜でした。
　皆が歌うのを聴きながら、集中して歌詞と曲を頭に叩きこみます。
　曲想に合わせて表現することなら毎日新体操でやっている翠響とはいえ、当日の練習で覚えられるものでしょうか？

「今日は『ねこじま』に遊びに来ましたな」
　ほしびとのミーツェ・Ｍ・フェリスは、黒髪天然パーマ・ミディアムショートの、１２歳くらいの可愛い少女の姿になり中学校の近くを歩いていました。
「何やらわいわいしていて、楽しそうですな？」
　『寝子中文化祭』と書かれた看板を見てミーツェは考えます。
「『ねこちゅー』の『ぶんかさい』……お祭りですな？」
「そこのキュートなお嬢さん、『ちゅー祭』見てかないかい？」
　慎之介に声をかけられ、ミーツェは元気に答えました。
「お祭り好きですな、沢山楽しみますな！」
　そして財布の中を確認します。
「お金は……大丈夫ですなー！」
『ねこじま』を楽しむ為にお金になりそうな物を入れてきたので、ちゃんとお札も小銭も沢山入っています。
「大丈夫、ぼったくりじゃないから安心価格だよー！」
　そう言うと慎之介はプログラムを渡してくれました。
「可愛い物とかあるといいですなー」　
　校内図を見ながら、ミーツェは色んな展示やお店を見て回ることにしました。

　
（何だか雰囲気が違う。私が中学に通っていたころは、こんな感じじゃなかったのに）
　紫は４年前とは全然違う校内の様子にあっけにとられていました。
（出店なんて今までなかったし、文化祭なのかハロウィンなのか、とにかくにぎやかね）
　紫は戸惑いつつも、この変化を好ましく感じました。
　たまたま聞こえてきた賑やかな音楽につられて、体育館に入ってみると。
「次は３年３組のストリートダンスです。全員で練習した息の合ったダンスをお楽しみください」
（ちょうど蒼のクラスだわ）
　前のほうに空いていた席を見つけ、急いで座ります。

　蒼は位置について幕が上がるのを待っていました。
（練習時間は十分とはいえないけど、集中して覚えたわ。リズムはゲームで鍛えてるし、いける！）
　音楽と共にスポットライトが当たり、幕が上がります！
　ゲームをプレイするときのように蒼の中でスイッチが入り、夢中でステップを踏み始めました。
　指先まで力を入れてまっすぐに伸ばし、笑顔で踊ります。

　最初は顔が見えないポーズから始まりましたが、紫はすぐにアシンメトリーの髪型の蒼を見つけました。
（すごい……とてもキレのあるダンスだわ。あの子、いつの間にあんなに踊れるよう練習していたのかしら？）
　皆とはずれることなく息の合ったダンスを披露する妹に安堵し、躍動する肢体に見惚れます。
　
　音楽が止まると同時にラストのポーズを決めると、万雷の拍手が鳴り響きました。
（無我夢中だけどとにかく精いっぱいやったわ……ちゃんと踊れたかな）
　そう思いながら観客席に目を向けると、紫と目が合いました。
　紫はにっこりと微笑み、（よくやったわ）と内心で褒めておいたのでした。
　　
　　

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