異なる季節｜リアクション

異なる季節

「さっむぃ」

　寮の自室にて勉強をしていた響タルトは突如として変化した気温に気づいた。
　今は十一月と秋真っ只中であり寒くてもおかしくはない。だが、先程までは涼しい程度で息が白くなる程寒いというわけではなかったのだ。
　タルトは思わず時間が進んでいないか携帯の時間を確認してしまってさえいた。
　何せこの寝子島では油断ができない。気づかない内に時間が進んでいたなんて事もあり得ないとは言えないのだ。
　とは言えども、今回はどうやら時間が進んでいるという事はなく、どうやら気温が変化しているだけのようだ。――それをだけと言って良いのかは怪しいのだが。

（でも、本当に冬みたいだなぁ）

　と、そんな事を考えたところで、タルトはそうだ！　と何かを思いついたらしい。
　それはせっかく時間が経たないまま寒くなったのならば、冬になり締め切り前のつもりで原稿進めてみてはどうだろうかというものであった。
　別名テスト前の現実逃避である。

（眠い！　眠いけど、寝たら死んでしまう！　そう、この原稿達が死んでしまう！）

　あれからを寒い中原稿を書ける環境を整えたタルトが原稿に取り掛かり始めてから何時間が経った事か。
　一心不乱に原稿を描いていたタルトには今が何時かすら解らない。時計を見れば一目瞭然なのだが、強い眠気が襲ってきている為、満足に時計を見る事すら出来なくなっているのだ。
　それでも自分の手を怪我をしない程度にペン先で突っつきながら何とか意識を保つタルト。

　きっとこれを教師が見れば、この情熱の何割かを勉強にも向けてくれればと言う事だろう。
　だが、情熱とは全てのものに向けれるものではない。ただそれだけにしか向けれない情熱というのも存在するのだ。

（そうだ！　BL、BLを妄想しよう！　妄想する事で心に炎を灯すんだ！）

　一体、タルトは何を考えているのか。あまりの眠気に思考さえも正常ではないのかもしれない。

（場所は……そう。寮の自室！　それで、こう寮の部屋で、やってきた彼を玄関で出迎えて壁に手を付きながらいらっしゃいって……）

　一旦燃え出した妄想は止まらない。
　長身で眼鏡をかけた温和そうだけどどこか芯が通ってそうな青年が、背が低くて気弱そうな青年を自室に迎え入れているというシチュエーションでどんどん妄想が激しくなる。

「うふふふふ……って、あれ？」

　怪しげな笑みを浮かべながら、活気を取り戻すタルト。妄想はやはりエネルギーだというのか。
　だが、そこでふと気付く。何だか感じる温度が変だと言うことに。

「何か、温かい？」

　そう。先程までは確かに吐く息が白くなる程の寒さを感じていたというのに、今は暖かさを感じる気温となっていた。

「え、あれ？　熱中しすぎてネコミケ過ぎて春になっちゃった？」

　あまりの妄想に未だボケているのかそんな事を呟くタルト。
　そして、暫くして漸く正常の思考に戻ってきたタルトは、そこでテストの存在を思い出した。

「うん、これはまずいねっ」

　タルトの脳裏に浮かぶは、春になって留年している自分の姿。このままではとてもまずい事になるだろう。
　とりあえず、原稿は一旦置いておいて勉強をしなけれないけないと考え、原稿を一旦片付けるタルト。
　しかし、眠気そのものはまだ完全に冷めてはおらず、突然の変化に覚めた目が程よい暖かさの中で再び眠気に襲われていた。

「うん、勉強を、する前に……まずは一休み……」

　段々と小さくなる声と共にゆっくりと横になるタルト。
　桜の花びらがひらひらと舞う中、規則正しい寝息だけが聞こえるのであった。

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