ARで楽しもう　またたび恐竜園へようこそ！｜リアクション

ARで楽しもう　またたび恐竜園へようこそ！

【久しぶりの先輩】

　龍目豪はまたたび市動物園のゲート前でそわそわしていた。約束の時間は１０時で、今は９時５５分。
　寝子高の卒業生である入江みつびと待ち合わせているのだ。
「みつび先輩、こっちこっち！　久しぶり、元気だったか？」
「あ、豪くん！　私は相変わらず元気よ。豪君もそのツンツン頭、変わってないねー」
「みつび先輩こそ、かまぼこのピン留めは健在か。かまぼこサーファーここにありって感じだな」
　やってきた彼女とひとしきり笑いあってから、チケットを購入して入園。係員からＡＲゴーグルを受け取り、すごいとはしゃぐみつびをちらりと見て、豪は胸をなで下ろした。

（……この様子だと、大学で彼氏ができたって訳でもなさそうだな。はー、良かった）

　ならば、これは再会した憧れの先輩とのデート！　と俄然気合いの入る豪である。
「豪くーん、どうしたのー？　早く恐竜見ようよー！」
「あ、悪ぃ悪ぃ。今行く」
　園内マップを受け取り、ＡＲゴーグルをかけると、早速視界内に字幕が表示される。
「見て！　豪君、この足跡はステゴサウルスだって」
「おぉ、二列並んでるこっちの足跡はアロサウルス……肉食の恐竜か。二つとも乱れているのは二頭が戦ったからなんだな」
　園内に敷かれた足跡シートから、現実の動物園に重なるようにして、半透明の恐竜の姿が浮かび上がる。
「え、ＡＲと分かっててもでかいな」
「恐竜かっこいいねー！　がーっとなってどばーだもん、すごい！」
　幸い、神魂の影響で本物になって暴れ出す――というようなことはなく、豪とみつびは安心して園内を回ることができた。
「ねぇ、豪君はどんな恐竜が好き？」
　ホッキョクグマのエリアに差し掛かったあたりで、みつびがワンピースの裾を揺らして豪を振り返った。
「うーん、さっきのステゴサウルスとかかな。ティラノもいいし」
「ティラノかぁ、いいね、強そうで。豪君のイメージに合ってる。……あれ？　あそこ、シロクマのプールに恐竜がいるよ」
　みつびの指さす先、熊の親子がくつろぐプール。
　背中に帆のようなモノがある風変わりな恐竜が、一緒に水に浸かっていた。
「ありゃなんだ……スピノサウルス？」
　ＡＲゴーグルに解説が出る。ホッキョクグマ成体の体長は1.6ｍから2.6ｍ。それに対して、スピノサウルスの体長はおよそ15ｍ。
「うわ、でかいシロクマがまるで子供みたいだ」
「ふふっ、あのスピノサウルス、まるで狭いお風呂に入っているみたい」
　熊にとっては自由に遊べるプールでも、スピノサウルスには窮屈に見える。ＡＲの魚を狩るのも難儀しているらしい。

『肉食の恐竜と言えば、ティラノサウルスが有名だよね。でも、このスピノサウルスは川で暮らし、推定全長12ｍのティラノサウルスよりも大きかったんだって。二人の暮らす時代は違ったけど、出逢っていたらどうなっていただろう？』

　解説を読み終わったあたりで、ふふっ、とみつびが笑った。
「豪君はお魚が好き？　それとも、ティラノサウルスと同じでお肉派かな～？」
「どうしたんだよ、いきなり」
「そろそろ１２時になるし、お昼にしない？　フードコートには恐竜園の特別メニューがあるって！」
　彼女の広げるマップに目を移すと、ちょうど豪の腹がぐぅ、と鳴った。

このページにイラストを設定する