寝子高制服☆トリエンナーレ！｜リアクション

寝子高制服☆トリエンナーレ！

●私服：エントリーNo.07　弘明寺能美子、No.08　桜月

　同じ星ヶ丘寮住まいの弘明寺能美子と桜月は、控室でばったり出会った。
「やあ、弘明寺さん」
「桜さん、あなたも？」
「そうなんだ。皆にも会えるし、服のデザイン画の参考になる物が見られるなら、と思って来てみたのだが……何というか運がないな」
　月はそう言って浅く笑う。誰かに会えるかも――そんな理由で外出するなんて、以前の自分からは考えられないことだった。そんな意味合いも込めて。
「私はただ学校にビニール傘を返しに来ただけだったんだけど」
　いやいや出場するのよ、という風を装っている能美子だったが、その心中は穏やかではない。
　なにしろ、彼女は中学時代までモデルとして活動していたのだ。スポットライトを浴びて華やかに歩いたこともあるし、そのための訓練もした。しかし、そんなモデル時代のことは友人たちには秘密にしている。ただの不機嫌な少女よ、というフリをして……隠しきれないものを隠しながら生きている。
（……でも）
　と能美子はポーチを開いた。
　ポーチの中には化粧道具。その中から、ショー用の特別な化粧品を取り出して。
（……やるんだったら完璧であれって思っちゃうわ）
　鏡の前でファンデーションを塗りながら、脳内でウォーキングのシュミレーション。
　でるなら優勝したいわ、なんて欲も出てくる。
（そうなると個性を出したいわね……）
　能美子は返しそびれていたビニール傘を見た。それから月の手の日傘にも気づく。
「その傘……」
「ん、私は日の光が苦手だから手放せなくてね」
「素敵な傘だわ。私たち二人とも傘を持っているわね。……使えるかも」
「使える、とは？」
　首を傾げる月に、能美子は自分の考えを披露した。
「……なるほど。いいアイデアだね」
「でしょ？」
　このとき、能美子の眉間からはいつもの不機嫌さが消えていた。
　月はそれに気づき、ただ素直に彼女の美しさに感じ入った。
　そして、そんな月の視線に気づいて戻ってしまった眉間の皺に、「おや残念」と思うのだった。

◇

　スポットライトが当たる。
　能美子と月はキャットウォークを並んで歩く。
　さすが経験者の能美子は、堂々としている。
　どのように歩けば格好よく見えるか、身体が覚えているのだ。
　月はやや緊張した面持ちだったが、それでも能美子が隣にいてくれるのですこし気が紛れた。
　能美子は素敵な海の色をしたワンピース。
　指輪やブレスレットやサンダルだって、どれも組み合わせに頭を捻り、こだわりのないものはない。
「普段の制服からの解放がテーマよ」
　能美子はそういうと、手にしていた傘を開く。
　これが、能美子の考えたアピールだった。