寝子高制服☆トリエンナーレ！｜リアクション

寝子高制服☆トリエンナーレ！

　常盤四月は知る人ぞ知る、BL同人作家である。
　けれど今日、四月はなんと男の子と出店巡りをしている。
　お相手は多喜勇生。中間テスト前の一夜漬けを切欠に、意識し始めたらしい。
（三次元には免疫なかったけど、タッキーって分厚い牛乳瓶底メガネのせいか、それほど異性を感じず喋れるんだよね。でも男の子と一緒に回るの、初めてで緊張しちゃうよ～。デートみたい）
（何だかデートみたいで、ドキドキするけど。きちんとエスコート出来るように、頑張らなきゃ！）

　胸のドキドキを隠しつつ、勇生はわざとゆっくりと歩く。
　気遣いが伝わり、四月も段々頬が上気してくる。
（適切な距離ってどの位？　にやにやしてたら変かな？）
　そんな四月が、出店で売られている練乳あずきに目を留めた。
「あ、あれおいしそう！」
「カキ氷かぁ。いいねー。僕も練乳イチゴ買おうっと。ここは僕が出しとくね！」
「え？　大丈夫だよ」
「いいから、僕に奢らせて」
　四月は漫画家としての収入があるから、すでに納税者なのだが。女の子の前で見栄を張りたい男の子の気持ちを察して、ご馳走になる事に。
　並んでカキ氷を食べながらも、落ち着かなくて四月は饒舌になる。
「ねえ、タッキーの趣味は？　好きな食べ物は？　将来の夢は？」
　勢いが空回りして、つい相手を質問攻めに。けれど勢いは止まらず、ドン引きされていないか心配する四月をよそに、勇生は感激していた。
（緊張している僕に、話題を振ってくれているんだね！　優しいなぁ……四月ちゃん。これは答えなきゃ、男が廃る！）
「趣味はDIY、欲しけりゃ自分で作るがモットー！　好物は肉入り炒飯！　将来の夢はチェンソーの匠になる事だよ！」
　もっと格好良い事を言えば良かったかな、不安になる勇生だが、四月の反応はいい。
「お部屋や用途に合わせて、自分で家具が作れるって頼りになるね～」
「ほ、ほんとに？」
「うん！」
　学生しながら、連載いくつも抱えてる漫画家のデスクは、整理整頓が大変なの。求む、修羅場をより快適に乗り越えられる環境と、心の嫁！　そんな事とは知らない勇生は、小さくガッツポーズ。
（頼れるかぁ、く～！　四月ちゃん、かわいいなぁ……）

　浮かれたのも束の間、勇生はトイレへ。
「混んでて時間が掛かりそうだから先に行っててー。終わったら迎えに行くね」
「ごゆっくり～」
　小さく手を振って、勇生を見送った四月の目が、瞬間きゅぴーんと光った。
　サングラスにスカーフをマチコ巻きにして変装した、彼女の目的は唯一つ。
　自身で手がけた同人誌、クマ×桐島R18本『アラグマンナイト』第三弾と、前回の補習で着想したウォルター×和哉本を売りさばく事。
　校内を漂流し、腐った香りのする……要は同類を物陰に引っ張り込んで、売りつける。
　この変わり身の早さが、腐女子は自分の恋愛は別腹と言われる所以か。
　意外と多い隠れ腐女子に、本は快調な売れ行きを見せていたが。
「……ん？　何か妙な事してる奴がいるな、コソコソ何してるんだろうな」
　観察していた和哉は、やがてそれが四月だと気付く。
「げっ、常盤！　その本は……？」
「堀くん！？　受け本人がきちゃったよ、やばい逃げろ！　鬼熊や桐島先生、ウォルター先生にバレたら、停学くらっちゃう！　いやそれより何より」

　――タッキーにバレたら、軽蔑の目で見られてお嫁にいけないッ！

「待てっ！　受けって何の話だ！！」
　小柄な体を器用に使って、四月は人混みに雲隠れ。見失った和哉は、諦めるしかなかった。

「四月ちゃん？　あれ、何だか顔が赤いけど大丈夫？」
　ようやく四月と再会した勇生。
　そんな二人には、まだまだハプニングが待ち受けていたのだが、それはまた後の話。

　どうにか人が切れて、氷華も休憩時間。
　祭りの賑わいに目尻を下げながらも、仲間と自分のために適当な昼食を買い、氷華はまっすぐ店に戻る。
　例え変装していても、義理堅い彼女の中身は変わらない。