寝子高制服☆トリエンナーレ！｜リアクション

寝子高制服☆トリエンナーレ！

●「きらく屋」（駄菓子店『きらく屋』）

　旧市街の駄菓子屋さんが、そのまんま出張してきたのが“きらく屋”である。
　今日は、折口ゆづきが店の主。
　フックに掛けられたカードや児童向けの玩具。プラスチックボトルに入った煎餅やイカをはじめ、トレーに並んだ色彩鮮やかなポケット菓子に、大人達は懐しさに思わず覗き込んだ。
　だがやはり、駄菓子屋と言えば主役は子供。

「あら、チカちゃん……いらっしゃい。学校のお祭り、いっぱい楽しんで行ってね」
「おねえさん、こんにちは」
　にこやかな笑顔を見せながら屈み込んだゆづきに、ぺこりと挨拶するのは、おかっぱ頭の少女。鬼の熊吉として知られるアイツの愛娘だ。
　一人娘を伴って駄菓子屋を訪れるクマに、ゆづきはクマも人の子なのだなと、微笑ましく感じていたのだが、どうした事か今日はチカ一人だ。
「チカちゃん、一人？　今日はお父さんは、どうしたの？」
　お菓子を物色し始めたチカに、ゆづきは問う。チカはまだ6歳、一人で出歩くのは不自然だ。
「お父さん、ちょっとだけトルエン……何とかっていうのをしてくるから、ここで待ってなさいって」
「え？　……ああ、トリエンナーレね。ちょっとビックリしちゃった」

「……折口さんだ。どうしたの、その子？」
　猫パペットを手に、相変わらずの無表情でやって来た恵御納夏朝も、チカに目を留めた。
「恵御納さん、いらっしゃい。この子、吉田先生の娘さんのチカちゃんよ。うちのお得意様なの」
「そうなんだ……あんまり似てないね。こんにちは、チカちゃん」
　夏朝が猫パペットでご挨拶すると、チカははにかんだ。
「猫さんグッズ、何か置いてないかな……」
　チカに並んで、品物を見回す夏朝。「これは？」とチカが小さな手に取って見せてくれた、肉球型の棒付きチョコに「かわいい！」と目を輝かす。
　同じ目線でこうしていると、小さな子供に戻ったような気分になる。

「お父さん早く戻ってくるといいね。プログラムどうなってたかな？　確か、配ってたパンフに……」
「そう言えば、配ってたね……」
　ゆづきと夏朝は、同時にパラパラとパンフを捲る。

“出場おめでとう！”

　目に飛び込んできた文字に、二人はこれまた同時に声を上げた。
「……！？　え、あ？　こ、これって」
「……どうしよう……」

「行ってらっしゃい、ここは見ておいてあげるよ」
「チカちゃんに、そんな事はさせられないよ……」

　結局、通りがかった白沢絢子先生が臨時店番を申し出てくれたので、ゆづきと夏朝のトリエンナーレ出場は果たされるのであった。