猫の小道でお祭りを｜リアクション

猫の小道でお祭りを

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　夏休みも終盤。皆が長い休日を惜しむころ、猫の小道でお祭りがあるという。
　浴衣を着るのは多分、今年はこれが最後になるかもしれない。佐和崎紗月はなんとなくそう感じながら、からころと下駄を鳴らしながら猫の小道に足を踏み入れた。白い繊細な生地に、匂い立つような月下美人の華が咲く浴衣。セミロングの髪はすっきりとハーフアップに結わえて、小さな白花の飾りを添える。その傍らには、初瀬川理緒。この祭りに行こうと言い出した張本人だ。
「受験勉強も大事だけど、息抜きしないと死んじゃう」
　そう言って、猫の小道を勧めてきたのだ。透き通った空の水色に牡丹を添えた浴衣。長い髪はポニーテールにして、涼しげなトンボ玉のかんざしを差し込んできた。
「んー！　いいにおいするねぇ」
「屋台、結構あるのね」
　二人並んで、雑踏を抜ける。理緒の頭の片隅には、偏差値30からの大学受験という過酷な課題がこびりついて離れないが、今日この時だけは忘れたいとばかりに猫のいる場所へ足を向けた。足湯のところにたくさん猫がいる。そう聞いていた二人は、さっそく足を浸ける。
「にゃー」
　さっそく、人懐っこい猫がやってきた。
「あ、来た来た！　かわいいね！」
　理緒が嬉しそうに猫を呼ぶ。ひょこりと紗月の傍らにやってきた猫は、あそんでよーとばかりに紗月のふともものあたりを前足でてしてしと叩いた。
「今おやつあげるわね」
　屋台で買っておいた猫カリカリを取り出して一粒猫の口元へもっていくと、嬉しそうにはくはくとかぶりつく猫。
「おー、お前も欲しいの？　おいでおいで」
　理緒も、近づいてきた猫にカリカリを渡す。いつの間にやら、あたりには猫がわらわら。
　ふと、紗月はきゅっと胸が詰まるような、あふれそうになる思いを我慢できなくなった。
「理緒ちゃん……」
「ん？」
　視線を猫から理緒に移し、紗月は真剣な瞳でまっすぐに見つめながら言った。
「……来年の夏、いえ、これからもずっと、こうして一緒に浴衣着てお祭りに行ったり、水着着て海で泳いだり、肝試しに行ったりしたい……」
そのうるんだ瞳に、理緒は自分の目頭が熱くなるのを感じる。
（……もちろんだよ、そんなの、私も……）
　けれど、涙は押し込めて。
「来年はどんな浴衣着ようかな？　またあたしに紗月の浴衣、選ばせてよ」
　からりと笑って、大切な約束を交わした。紗月が嬉しそうに頷くその傍らにいたのは、背にハートの模様を持つ猫だった。

「あっ……」
　理緒は破れたポイと逃げていく金魚を交互に見て、深くため息をついた。
「理緒ちゃん、もう一回やる？」
　紗月の手の中のお椀には、金魚が五匹も泳いでいる。こうも違うものか、ともう一度ため息。
「射的といい輪投げと言い……紗月強すぎだよ……」
「そうかしら。理緒ちゃんはかたぬきすごく上手だったじゃない。私すぐボロボロにしちゃって」
　それに、ヨーヨーも取ってくれたし、と紗月は理緒に取ってもらった藍色のヨーヨーをぱしゃん、と持ち上げて見せる。
「うーん、来年はもっとうまくなりたい……」
「ふふ、練習しておかないとね？」
　次はどこに行こうか、と立ち上がる。たこやき、いかやき、チョコバナナ……屋台の誘惑をくぐりぬけ、体型維持という大切なミッションを死守した理緒がたどり着いたのは……。
「おばけ……屋敷？」
「うん！　せっかくだしバケネココースにいこう！」
「え、ちょっと待ってそれって」
　すごく怖くなるんじゃ？　紗月の手を引き、理緒はずんずんとバケネココースで！　と受付に伝えて中へ入っていった。
「暗い～、なんにもみえないよ」
　目が慣れるまでは物が見えないかも、と紗月に言われて、理緒は一生懸命に目を凝らす。
「何か落ちてる……」
「あ、懐中電灯だね」
　ぱちん、とスイッチをいれると弱弱しい光が。それでもないよりは幾分かましだ。前方を照らしながら、ゆっくりと前へ。
「ひぇ！？」
　ばんっ、と勢いよく墓石の裏から飛び出てきたのは白い着物の女。
「きゃああ！？」
　天井からは謎の水滴。
「うあああああああ！？」
　タチサレ、と壁に浮かび上がる血文字。半ば駆け抜けるようにしてコースを抜けていく。出口の間際だった。
「理緒ちゃん……あ、あれ……」
　出口のそばにいた猫の様子が……おかしい。
「紗月……あれまさか化け猫……」
　ニタァリ、猫が、笑った。口が裂けている。
「ニィイイ……」
「いやあああああああああああ！！！！」
　あまりの不気味さに一気に走り抜ける二人。ぜえはあと息を切らしてなんとかクリアした先には、きょとんとした顔の子猫が二人を見上げていたのであった。

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