寝子島ご当地ラーメンを作ろう！｜リアクション

寝子島ご当地ラーメンを作ろう！

【僕の考えたさいきょーのらーめん】

「次のお客様、ラーメン２つ、お待たせしましした！」
　流は行列に並んでいた客に、ラーメンを載せたお盆を渡す。調理を依頼できるとはいえ、客引きと接客は一人でこなさないといけないので、かなり忙しい。
「カツオ節お好きな方、いかがですかー！」
　ありがたい事にお客は引きも切らず、売れ行きは順調だ。
　しかし、流はこれぐらいで満足する男ではない。
　彼にはまだ隠し球があるのだ。

（ここでさらに飛ばしてやるぜ）

　店のスタッフに休憩に入りたいとお願いし、ラーメンを持って食事用のテント席へ。
　醤油色の透明なスープに、油の粒がキラキラと浮かぶ。レンゲを持って、スープを一口。

（はぁー、カツオ節の優しさを豚骨のコクが包み込み、喉から鼻に抜ける出汁の香り……）

　麺をすする。

（あっさりとした醤油スープと程よくからむ細めの縮れ麺……スープだけを飲んだ時とは違う味わいだ）

　薄く切りすぎにも見えるチャーシューとメンマは、見た目を裏切るボリュームと滋味で、味玉はぷりっとした食感が楽しく、黄身をスープに溶かすと味変を楽しめる。ぴりっと辛いネギがうまく全体を締めていた。
　美味い、と、流は心の底から思った。

　――その瞬間。
　彼のろっこん、『メシテロジツ』が効果を現す。

「ママ―、あのお兄ちゃんが食べてるラーメン食べたいー」
「もう、しょうが無いわね……でも、確かに美味しそうだわ」

　親子連れを皮切りに、客が次々と流の店に並び始めた。他のラーメンを食べていた人も、食べ終わり次第慌てた風に、だ。
　それだけではない。

「こら、マロン、やめなさい！」

　わんわん！　つぶらな瞳でしっぽを振るミニチュアダックスフントと目が合う。
　犬を抱き上げて謝る飼い主に、いえいえ、と手を振る。『メシテロジツ』は流自身が食べているものを他人や動物も食べたくなるものだが、今回のラーメンは危険だ。

「ごめんなぁ、ワンちゃんはネギを食べたらいけないんだよ。他のお店を当たってくれな」

　犬と飼い主に別れを告げ、食べるのを再開すると、流の前の席にタルトと遠海がやってきた。
　その手には流の店のラーメンがある。

「おー、お買い上げありがとうございます」
「うん、魚介系のラーメンは好きなの」
「このスープ、きれいだったから」

　二人の返事に気を良くし、流は箸を置いて口を開いた。

「そうだろうそうだろう！　カツオ節と豚骨、醤油は寝子島産のものをと思って、あちこち走り回ったんだぜ」
「へぇ、じゃあ、寸胴鍋をかき回したりもしたの？」
「あぁ。豚骨を煮込む時は人手がいるし、全部任せっぱなしってのも悪いからな」

　流はちらと店の方に目をやった。行列はどんどん長くなっている。
　そろそろ帰らねば、と最後のスープを飲み干して、流は席を立った。

「じゃあな、お二人さん。どうぞごゆっくり」
　挨拶して店に戻る流の後ろ姿を、タルトと遠海はしばらくじっと見送った。

　タルトは（あの人は攻めかな？　受けかな？）という憧れのまなざしで。
　遠海は（こんな美味しいラーメンを作れるなんてすごいなぁ）という尊敬で。

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