寝子島ご当地ラーメンを作ろう！｜リアクション

寝子島ご当地ラーメンを作ろう！

【求めよ、さらば与えられん（その２）】

　ラーメンフェスティバルの会場に到着したタルトは、ほっと一安心して、傍らの遠海に声をかけた。

「お客さんいっぱいだねー、賑わってる」
「ほんとだねー」
「ラーメンも食べたいけど、僕は『味玉運びレース』と『ラーメン丼バランス選手権』に参加したいと思ってるんだ。楡宮ちゃんはどう？」
「私も参加しようと思っているよ。美味しいラーメンを食べた後の気分転換にいいと思って」
「よーし、負けないぞ♪」

　タルト達二人は会場の案内板に従って、チケット売り場に並んだ。

「枚数はどうしようかな……僕は３枚くらいにしておこう」
「私は５枚綴りのセットにするよ！　もっと食べたくなったら追加を買おうかな」
「おぉ、楡宮ちゃん気合い入ってるね」
「ねこったーで知ってから、すごくワクワクしてたの。今日は食べるよ！」

　拳をにぎり、キラキラ輝く遠海の瞳を見て、タルトは先日見たドキュメンタリー番組を思い出した。

（あのテレビに出ていたお弟子さんの目も、こんな風に輝いていたなぁ……）

　タルトが心を震わせていると、遠海に呼ばれた。
「響さん、あっちのステージでメニューの発表があるんだって！」

　チラシの出店一覧表には１０の店が出ると書かれていた。
　次々とステージに現れる店主達は、それぞれ出汁や具材に趣向を凝らし、寝子島とラーメンに対する愛情を熱く語る。

「アサリの出汁とレモンだって！　冷たくてさっぱり食べられそうかも」
「ホアジャオかぁ……辛いメニューに挑戦してみるのもいいかな」
「暑い日に辛いもの、いいんじゃない？　冷たい飲み物もここで売ってるみたいだし」

　メニューの発表が進む度に、タルトと遠海はあれがいいかこれがいいかと話し合う。
　次に現れたのは、それまでの大人とは違って少年だった。

「皆様こんにちは！　ラーメンフェスティバルは調理依頼もオッケーって事だったんで、レシピのみでの参加になります寝子高生、水守流です。俺の考えたラーメンは、たっぷりのカツオ節と豚骨で出汁をとった、ダブルスープの醤油ラーメンです！　具材はチャーシュー・メンマ・味玉・ネギの王道でまとめました。別料金で具材増量もできますんで、良かったら食べに来て下さい。店名は『ラーメンに小細工はいらねぇ！』です。よろしくお願いします！」

　調理スタッフと共に頭を下げた流を見て、タルトは心が浮き立つのを覚えた。ろっこん『チェシャ猫』で猫に変身する身としては、どうしても魚介系のラーメンに惹かれてしまうのだ。
　しかし、それに勝るとも劣らない店が最後にやってきた。
　２０代とおぼしき兄弟が出店する、『ベーコン＆レタス』である。
　茶髪の弟の軽妙なトークで幕を開けたメニュー発表は、途中で筋骨隆々の兄に交代した。

「ほらほら、兄貴ももっとしゃべってよ。作った人でしょ」
「あ、あぁ……」

　緊張しているらしい兄のボソボソとした説明によれば、彼らが出すメニューは、トマトベースのスープに地場の野菜をたっぷり添えた、冷たいつけ麺らしい。

「別料金で野菜増量と、かりかりベーコンのトッピングもありますんで！　『ベーコン＆レタス』をよろしくお願いします！」

　固まった兄を弟が引きずって退場するのを目にする頃は、もうタルトの胸はいっぱいである。　
　
（口べたな兄と、社交的な弟……かぐわしい禁断の香り！　きっと、どちらかに恋人なんて出来たりした時は、片方がやきもきしちゃったり、気持ちを抑えきれなくなったりして……っ！）

　タルトはトッピングの注文も即決し、つけ麺を心ゆくまで味わったのだった。

このページにイラストを設定する