あくのこころが止まらない｜リアクション

あくのこころが止まらない

　桜は汗だくになりながら、島中を走り回っていた。ハーミィに狙いを定めているわけだが、中々それらしい美少年は見つからない。
　と、お土産屋さんの前を通りすぎようとして、桜は足を止めた。
　店頭にならんでいた名物の猫パンチ最中……使えるかもしれない。ハーミィは食べものに弱いらしいので。
「これ一つ下さい」
　最中を購入した桜は罠を仕掛けるため、ベンチを探すことにした。しかし、
「あっ」
　向こうから歩いてくる二人組の女の子に気がついた。それぞれ黒いクマと黒い猫の縫いぐるみを抱いている。
「あれが『あくのこころ』にとり憑かれた子供……！」
　さすがに目の前にいるのに見過ごすことは出来ない。
　身構えた、その瞬間。
「！？」
　顔面に勢いよく水でっぽうがかかった。見ると、女の子達がぬいぐるみの陰から出したらしいウォーターガンを構えてにやにやと笑っていたのだ。
「やった、命中～」
「あはははっ」
「ふふふふっ」
　満足したのか、楽しそうに笑い合う彼女達。
「ね、絵を書こうよ！」
「あ、この塀に書いちゃお」
　今度はスプレー缶を取り出して、落書きを初めてしまう。悪いことをするための道具はぬいぐるみが与えてくれるらしい。
　桜は落書きに夢中になっていた彼女達に気づかれないよう、近くのカーブミラーに手を触れた。一分後、ろっこんを発動させ、金属でできたそれを粘土化させると細長く伸ばして先端に輪っかを作った。
「てーいっ」
　輪投げの要領で投てきすると、上手い具合に女の子達の体がすっぽりとはまった。
　すかさず粘土を引っ張ると、二人まとめて拘束することに成功した。
「わわ、何ー？」
「ベタベタするー」
　桜は素早く彼女達に近づくと、それぞれのぬいぐるみに、力を込めて手刀を振り下ろした。すると、すぐに消滅してしまった。どうやら、倒すのは難しくないようだ。
「あれ……。何してたんだっけ」
　桜は不思議そうに首を傾げる女の子達を置いて、ベンチ探しを再開する。
「早く見つけないと」
　人に水をひっかけたり、壁に落書きをする子が増えるのはいただけない。
「あ、あった」
　見つけたのは公園の近くだった。そこに最中を置いて、誘き寄せる。
　と、走り出そうとした時。
「！」
　角から飛び出してきた心とぶつかりそうになってしまう。
「あっと、ごめん」
　桜が言うと、心は目を瞬かせ軽く会釈をした。
「大丈夫？」
　そう問われ、心は考える。どうやら彼女はもれいびのようだ。ボコりたいところだが、理由がない。そして、あまりやり過ぎると通報される可能性がある。
「ええ、大丈夫よ。……こっちに男の子が逃げて来なかった？」
「うーん、見てないかな。あなたは……」
　桜は言葉を止めて、何やら驚いているようだ。すぐに距離を取られる。
「……何？」
　殴ろうとしていたことがバレたのだろうか。
「それ」
　桜が指でさしたのは、心の右肩だった。
「え？」
　そこにいたのは黒くて小さなうさぎのぬいぐるみ。心にしがみついていたのだ。
「あなたも『あくのこころ』に」
　桜は手刀をつくって身構えた。心も自分の状況を理解する。
「……そういうこと」
　どうやら、心自身も『あくのこころ』にとり憑かれていたようだ。しかし、心境に変化はないし、いつも通り、ひとをぼこぼこにしたい衝動がある。
「動かないで。私が今、ぬいぐるみを」
　心は桜に背を向けた。
「悪いけど、もれいびに用はないわ」
「あっ」
　止めるまもなく、心は走り去ってしまった。

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