データが消えて、真っ白け！？｜リアクション

データが消えて、真っ白け！？

　八神修の場合

　八神修は、七夜あおいと共に図書室で勉強していた。
「修くん、この問題ってどう解いたらいいのかな」
　あおいの質問に、いつものように笑みを浮かべて説明する修。
「ああ、ここは公式を……と」
　公式を書こうとしていた修の手が止まった。
（思い出せない……ド忘れ？　そんなバカな、この俺がか）
「修くん？」
（落ち着け、最初から考えろ……あれ）
　修は呆然とつぶやいた。
「ていうか、なんか突然全然分からなくなった！」
「えーーー、修くんそんな冗談を……」
「……俺も、えーーーだよ」
「「えーーーー！」」
　思わずハモってしまった二人だが、周囲の視線を集めてしまい声を低めた。
「修くん、具合でも悪いの？」
　心配そうに修の顔を見つめるあおい。
「……いや、大丈夫だ」
（俺の知識は努力で積上げたもの。それがふいに欠落するなんて……いや、あおいに心配をかけるわけにはいかない）
　なんとか不安と動揺を隠そうとする修。
「今日はもう勉強やめとこうか？」
　あおいは心配そうに修の顔を覗き込む。
「いや、せっかく図書室に来たんだし、他の科目を試してみよう」
　修は英語の問題集を取り出した。
「大丈夫？」
「……ああ、大丈夫だ普通に読める。理科はどうかな？」
　色々試してみると、知識が欠落しているのは数学だけのようだ。
「神魂の異変？　だとしたらいずれ治る……かな」
「そうだよ、しばらくしたら元に戻るよ」
　あおいは元気付けてくれたが、修は安心できなかった。
（だがもし治らなかったら……それどころか、もし進行して全部の分野に欠落が及んだら）
　強烈な不安に襲われる修。
（八神家には次の跡取り候補が呼ばれ、俺は施設で飼い殺しに……）
　修にとって、知識は単なる能力ではない。
　優秀でなければ意味がない。それは存在を許されるための拠り所なのだ。
「俺は……！」
　手が震えた。
　思わず不安が言葉に出た修の肩に、あおいの手が置かれた。
「大丈夫、大丈夫だよ、修くん。調子が悪いときは誰にだってあるよ」
「でも、もし今だけじゃなかったら……」　
　不安を抑えられない修に、あおいは笑顔を見せる。
「もし忘れちゃったって、修くんならまたすぐに覚えられるよ。だから大丈夫」
「あおい……」
（あおいの手が、言葉が、想いが、俺に力をくれる）
　しっかりしなければ、と修は思う。
　
「弱い部分を見せてしまったね」
　修の知識が努力の結果だと、会話を通してあおいは知っている。
（あおいが信じてくれてるなら、俺も俺を信じよう）
「せっかく図書室に来たんだし、気分転換に写真集でも見ない？」　
　そう言ってあおいが花の写真集を持ってきた。
「ああ、綺麗だな……」
　花を見ていると、気分が落ち着くのを感じる。
　ページを開くと、花粉が飛んでいる写真があった。
「花粉の拡散か……スギ花粉の拡散速度を算出するなら、気温をＴ、風速をＷとして、単位時間に大気中に放出される花粉数を……」
「……修くん、治ってるんじゃない？」
　あおいの指摘で、ようやく気づいた。
「あ、ほんとだ、治ってる」
　さっき思い出せなかった公式も、すぐに浮かんできた。
「良かった……ありがとう、あおい」
　

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