データが消えて、真っ白け！？｜リアクション

データが消えて、真っ白け！？

　愛猫萌々子の場合

　愛猫萌々子は呆然とスマホを見つめていた。
（『ののこ様の珠玉の写真データ集』が消えている……今までの蓄積がっ！　あんなに必死に集めていたのに……）
　萌々子がこんなにも野々ののこを慕っているのには理由がある。
（そう、あの時私を助けてくれたから……）
　スマホから消えてしまったののこの笑顔を思い起こしながら、いつしか萌々子は昔のことを思い出していた。

（お父様は全てが私のためになると言って、一方的に制限や命令をしてくる、独善的な人でした）
　萌々子は小学生の頃母を亡くしていた。
　父なりに萌々子を心配していたのだろうが、厳しさは萌々子を怯えさせるばかりだった。
（逆らうのが怖くて、お父様が決めた道を歩くだけで終わる人生になると思っていました）
　それが変わったのは中三の春、ののこの落下で怪現象や異変が起こるようになってから。
　非日常への憧れと、全ての始まりの神様に会いたいという思いが生まれた。
（初めて、もっと世界を見たい、ここで諦めたくないという思いが強くなって）
　家出するように寝子島に一人移り住み、今に至る。　
（ののこ様は私に勇気と自由を与えて下さった恩人です。本人にそんなつもりも記憶もないでしょうが）

　初めてののこに会った時の感動を、萌々子は忘れない。
　学年が違うのであまり会える機会は多くないが、密かに『ののこ様親衛隊』を立ち上げ、ののこの日常を見守った。
　可能な限りその姿を写真データに残していたのだが、許可をもらってはいなかった。
（考えてみるとそんな恩人を盗撮してたも同然ですね。勝手に撮っていたから罰が当たったとか……反省です）
　今後はちゃんと許可をもらいましょう、と萌々子は決意した。
（……と思ったら、ののこ様が向こうに！）
　いつものように元気な笑顔だ。
　落ち込んでいた気持ちが嘘のように、元気が湧いてきた。
（さっそく、新たな写真データ集の一枚目を撮影しましょう）
　スマホを構える前に、思い切ってののこに声をかける。
「ののこ先輩……写真を撮るので、私と一緒に映ってもらえませんか？」
「えっ？」
　ちょっと驚いた様子のののこだが、すぐに笑顔になった。
「うん、いいよ～♪　撮ろう！」　
「それじゃ……撮りますよ。はい、チーズ♪」
　初めてのツーショットは、笑顔が眩しい出来だった。

（あれ？）
　今撮った写真を確認した萌々子は、消えたはずのデータがそっくり現れたことに気づいて驚いた。
（ののこ様……戻ってきてくれたんですね！）
「どうしたのー？」
「あ、いえ何でもありません。また写真、撮らせてくださいね」
　ののこに見つからないよう珠玉の写真データ集を隠しつつ。
　萌々子は二度と思い出が消えないようデータを保存しておこうと思うのだった。
　　

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