お茶会にはお菓子を。｜リアクション

お茶会にはお菓子を。

　最後にやって来たのは風の崖だ。
　出掛けていた風鳥が戻ってきたのを確認し、三人は岩の影に隠れる。
「あの鳥、一番厄介ね」
　葉月が言うと、遠海が崖を見上げる。
「音に反応するなら、私のろっこんで引き付けられるかも」
「わかった。頼めるか？」
「じゃあ、私は足止めを」
　葉月が鞄から取り出したのは画材だった。自分のテリトリーに浸入してきた生き物を襲うのだとしたら、その不安や憎悪を浄化出来る。
「行くぞ」
　修は岩を出て駆け出した。それと同時に二人も陰から飛び出す。
　遠海は葉月が絵を書き始めたのを確認し、何もない空間に鍵盤をひく動作をする。すると宙に鍵盤が出現し、遠海は流れるように曲を奏で始めた。
　崖に近づく修を捉えていた鳥の視線が遠海に向けられる。音には反応するようだ。
「きあああっ」
　鳴き声を上げた風鳥が羽を広げ、遠海に向かってくる。しかし、葉月の絵はすでに完成していた。
　風鳥が緑色の炎に包み込まれたかと思うと、静かに地面へ着地した。その様子を伺った修は鞄から鋏を取り出した。崖下についたところで精神を集中させる。閉じた目を開け、鋏の柄を分離させると、それを操って上方の桃の元へ。果梗を切断、
「この、風の流れなら」
　桃は落下してくるが、途中で強い横風が吹いた。
「！」
　予測した落下地点から大幅にずれてしまった。
「まずい」
　修は制服のベストを脱ぐと、すぐに第一ボタンを分解、それを操って、地面に激突しそうになった桃をキャッチしたのだった。
　最後の材料ゲット。

　広場に戻った三人。精霊達も集まって、お茶会が開催された。
　真っ白なテーブルクロスが敷かれたテーブルに並んだのはティーポットと人数分のカップ。そしてアップルパイとオレンジケーキ、桃のタルト。人数が多いので立食パーティー式にしたのだそう。
「さぁ、どうぞ、皆さん。今日はこちらのお三方がお菓子の材料を集めて下さいました」
　精霊達から拍手が起こる。
「これ、炎のリンゴですか？　わたしたちでさえ取るのが難しいのに。どのように？」
　水の精霊に問われた遠海は、
「長い棒を探してきて使ったの。近づかなくても届いたから、今度試してみて」
　そうアドバイスをした。
　と、葉月のそばにやって来たのは火の精霊である。
「氷のオレンジ、凍らずに取れたんですか？」
「……池の上にロープを通して池に入らずに取ったから」
「ああ、なるほど！」
　タルトやケーキを切り分けていた修に声をかけたのは材料集めを頼んだ張本人、風の精霊だった。
「お菓子作り上手いんですね」
　何を隠そう、桃のタルトは修のお手製だ。タルト生地に角切り桃の生クリームを敷き詰め、その上からスライスした桃を並べた。
　修はなんとなく気恥ずかしくなり、頭に手を置いた。
「実はたまに作るんで」
　お茶会はその後も、楽し気に続いた。

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