恋心を取り戻せ！｜リアクション

恋心を取り戻せ！

「待って……私の恋心を返して……！」
「ちょっと、そこの小人、待ちなさいよ！」
　佐和崎と初瀬川は二人で小人を追いかけ回していた。ちょこまかと素早く動く小人はなかなか捕まえられない。振り回した虫取り網も空を切るばかりだ。
　小人は二人をあざ笑うかのようにちらりと後ろを振り返っては、細い路地へと入ってみせる。二人も追いかけて細い路地へと入るが、それでも捕まえられない。
「理緒ちゃん、何か作戦を考えないと……」
「そうね、このままじゃらちが明かない」
　小人を追いかけながら、二人はアイコンタクトを交わす。恋心がなくなっても、二人のコンビネーションは健在だ。
「私が先に小人を追いかけて誘導するから、理緒ちゃんは路地を抜けて先に行って。そこで捕まえよう」
「了解。そうしようか。……怪我はしないようにね？」
「うん、大丈夫。理緒ちゃんこそ」
　初瀬川は頷くと小人を追い越して路地を抜けた。
　それを見て、佐和崎は虫取り網を構えたまま小人を追い立てる。行く先は初瀬川の方だ。虫取り網を構える手にぎゅっと力を込めて、まっすぐに小人を見据える。
（もしこのまま……恋心が戻らなかったらどうしよう）
　ふと、そんなことを考えた。初瀬川に対して何も感じなくなってしまう。そんなのは絶対に嫌だ。走るスピードを上げて、小人を追いかける。
　初瀬川は路地の出口で小人を待ち構えていた。顔を出したらすぐに虫取り網で捕獲する算段だ。
（私だけじゃなくて、紗月の恋心まで奪うなんて許せない）
　きっと路地の出口をにらみ、そう心の中で呟いた。
やがて、佐和崎に追い立てられた小人が路地から出てくる。それを逃さず、虫取り網を奮った。二匹の小人は無事、虫取り網で捕まえることが出来た。
「やった……！」
　初瀬川から、思わず安堵の声がこぼれた。あとは小人が持っているハートを回収して食べるだけだ。
　逃げられないよう慎重に、虫取り網の中から二つのハートを回収して佐和崎に手渡す。
「はい。これ」
「ありがとう、理緒ちゃん」
　そう言って佐和崎が食べようとしたところに、初瀬川はハートを差し出した。
「はい、あーん」
「……あーん」
　言われるがままに口を開いてハートを食べる。甘酸っぱい味がした。ほろほろととろけるハートを咀嚼した後、佐和崎も遠慮がちに初瀬川の口元のハートを差し出した。
「あーん」
「ん、ありがと」
　そう言って初瀬川もハートを食べる。とろけるような甘さが口の中に広がり、同時に目の前の恋人を愛おしいと思う気持ちが蘇ってきた。ここが外だということも忘れて、思わず抱きしめる。
「わ……！」
　小人を逃している最中に抱きしめられ、思わず声が出た。どきどきしながら、その存在を確かめるように初瀬川の背中へ手を回す。二人の心臓の音が重なった。
「よかった……本当に」
「うん、……好きだよ、理緒ちゃん」
　そう囁くと、二人は抱きしめる力をより強めた。引き離すことの出来るものは、誰もいない。

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