恋心を取り戻せ！｜リアクション

恋心を取り戻せ！

その日、佐和崎紗月は待ち合わせ場所に五分早く到着した。今日は恋人である初瀬川理緒との勉強会の日。待ち合わせ場所でまだかまだかと待っていると、何か軽いものにとん、とぶつかられた。
「すみません」
　そう言ってみるも姿は特になく、首を傾げていると遠くから初瀬川がやってくるのが見えた。いつもならそれだけで心が踊るものだが、不思議と何も感じない。こんなことは、今までなかったはずなのに。
「ごめん、待たせちゃった？」
「ううん、全然。いま来たばっかりだから……」
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「うん……」
「……どうしたの？　具合でも悪い？」
「そういうわけじゃないんだけど……」
　会話を重ねていても、心が全然動かない。自分でも今の状態をどう説明していいものかわからず、困ってしまう。まさか恋人に、何も感じなくなったなどと言えるはずもない。困惑気味に目をそむけながら言葉を紡いでいると、初瀬川の肩にピンク色の服を着た小人がぶつかったのを見えた。そして、ハートを抱えて去っていく姿も。
「あ……！」
　小人がそそくさと逃げていく。
「理緒ちゃん、大丈夫？」
「ああ、大丈夫だけど……なんか、変だな。大事なものを、……紗月への気持ちを、盗まれたような」
「……！　私もなの！　何かにぶつかられてから、理緒ちゃんを見ても何も感じなくなって……」
　初瀬川はそこでスマホを取り出す。ねこったーへの投稿を見て、険しい表情を浮かべる。
「紗月、これ……」
　そう言って差し出した画面には、小人の情報が表示されていた。恋心を盗まれる、とまでは書いていなかったが、二人は確信していた。自分たちが盗まれたのは恋心だと。
「捕まえて、取り戻さなきゃ！」
「うん、そうしよう！」
　そう言って二人は行動を開始した。小人を捕まえるには手では大変だろうと、適当な店で虫取り網を購入する。
幸い、真夏ということもあり調達には困らなかった。
虫取り網を構えて、いざ小人捕縛が始まる。

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