月蛍苑へいらっしゃい｜リアクション

月蛍苑へいらっしゃい

●月と蛍

　星ヶ丘にやってきた小山内海は気づくとどこかの庭に迷い込んでいた。立派なつくりの日本庭園で、その中央には大きな池があり、月が映りこんでいる。ぼんやりとそれらを見ていると、目の前を鮮やかな光が通り過ぎた。
　一瞬驚いたが、すぐにそれが何か気づいた。

（わー、蛍がいっぱい）

　数多の蛍が庭を自由に飛び交っている。赤、青、緑といった色が綺麗な線を宙に描く光景に思わず見惚れてしまう。すると初老の女性が海に近づいてきた。
　女性はこの庭の主で、ここが星ヶ丘にある『月蛍苑』という場所だと教えてくれた。

（ふむふむ、『月蛍苑』っていうんだ）
（そういえば星ヶ丘にそんな場所があるって聞いたことあるかも）
（星ヶ丘に来たのはよかったんだけど、迷っちゃったんだよね）

　今いる場所がわかればなんとかなる。そう思うと安心感が沸いてきて、余裕が出てきた。

（せっかくここに来たんだし見ていこっと）

　女性によると、この庭は一般開放しているらしく、海と同じく迷い込んだ人もいれば、招待された人もいるようだ。海は庭園の美しさや蛍の光を楽しみつつ、池のあたりまでやってきた。そこに映る月は蛍の光も相まって美しく輝く。

（風流だなぁ。蛍の光も綺麗だし……あれ？）

　池の月に見惚れていると、周囲の蛍たちが集まってきて月の形を光で表現した。

（わ、蛍の光で絵が……！　ここの蛍たちは思ったこと、表してくれるんだ）
（よーし、だったら頑張っちゃおうかな）

　海は池の月ではなく、空に浮かぶ月を見る。そして夜空のキャンバスに描く絵を思い浮かべる。綺麗な月と輝く星たち。それらをバックに蛍の光で絵を描く。
　静かに流れる時間のなかでそれは完成した。
　キャンバスの左上に月が映り、右下に人々の姿が見える。その２つを星と蛍で繋いで、月へ向かう道を描いた。このキャンバスだからこそ描けた１枚に、海はここに来てよかったと思えた。

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