最速王は誰だ！寝子島高校雑巾がけレース｜リアクション

最速王は誰だ！寝子島高校雑巾がけレース

●北校舎クライマックス

　北校舎３階。東端で折り返した一同は、駆ける、駆ける。
　のこりはもはや、直線のみ！
　服部の実況にも熱が篭る。

「先頭はさすが陸上部、スタミナに自信があると言っていた後木！
　最速王になるのか御剣、前方を捉えられる距離！
　そしておおーっとぉ！　姫神がきたー！　姫神、速い！　我らが女神、すばらしい走りっ！
　その後ろをぴったりとついて橘が！
　うぉぉーっ！　橘、その位置はどうなんだ！？　羨ましすぎるやろーっ！」

　ここまでこまめに休憩を入れ、体力を温存してきた絵梨菜がラストスパートをかけていた。
　制服のスカートのままで！
　跳ね上がる脚！
　巻き上がるスカート！
　その後ろにつける勇が、彼女の後姿から目を離すことができないでいるのも致し方あるまい。
（見え、そうで、見え、ない……）
　きわどいぎりぎりのところで、見えない。
　さすがに校内を往復してきて疲れもあり、もうあの中身は一体何色なんだとか、いろいろ考える脳みそはなくなってしまっている。
　ただ、右、左、右、左と跳ね上がる脚を見失わないように追いかけて。
　見え、そうで、見え、ない。
　見え、そうで、見え、ない。
　呼吸に合わせてそれだけを唱えながら勇は走る。
「わ！」
「なんだ！？」
「きゃっ！？」
　前方の真央、刀、絵梨菜が、急に声を上げ左右に分かれた。
　突如開けた勇の行く手に。
「えええーっ！？　バナナー！！？！？」
　つるるつるつる、すってーん！　見事に！
「クラーッシュ！！　橘、ゴールを目前に大クラッシュ！　壁に激突ーっ！！　まさか最後にこんな古典的な妨害が待っていようとは！　橘大丈夫かーっ！？」
　レースが始まる前は、終盤になると滑りやすくなるだろう……転ばないようにしないと、などと思っていた勇だったが、絵梨菜のスカートの中身という魔力に囚われ、バナナの皮ですべって転倒！
　このバナナが月詠の仕業などとは知る由もない。
（……結局あのスカートの中身を知ることはできなかったか……）
　そう思うと立ち上がる気力も湧かず。勇はしずかに目を閉じる。

「残念、橘！　ここでリタイアだー！」

　ここで、真央、刀、絵梨菜が並んだ。
「最後だもん、勝負は正々堂々とだよっ！」絵梨菜がふたりに声をかける。
「わかってる！　最速王は俺だ！」と刀。
「豪・華・景・品～！」真央も鼻を鳴らす。
　すさまじいデットヒート！
　ギャラリーたちの歓声が遠く聞こえる。
　３者横並びの展開。
　しかし、その均衡を破る者が現れた！

「生春巻と！！　やきそば！！」
　奇妙な掛け声に３人が思わず振り返れば！
「まってろンゴーン　シダの胃袋と　足が　本気出す！」
　シダだった！
　シダが尋常ではないスピードで突っ込んでくる！
　しかも、その口からはだらだらとよだれが！
「きゃっ！」
「おわっ！」
「よだれっ！？」
　その勢いとよだれに、思わず脇に寄る真央、刀、絵梨菜。
　その間をシダが破竹の勢いで駆け抜ける！
「よだれ　でも大丈夫　雑巾がけしながらだから　よだれ落ちても　ホンサオダウ（問題ない）！」
「「「いやいやいやいや」」」
　ツッコミを入れる間に、シダは三人の間を駆け抜けて行ってしまう！
「加速　加速　ラストスパート　モッハイバーボン！！」

「い、行かせないっ！」
　動揺から最初に立ち直ったのは絵梨菜だった。シダに食らいついてゆく。
「真央ちゃんだって！」
「俺としたことが！」
　真央、刀も懸命に追いかける。
　だが……！

「美穂戸ゴーーーーール！　姫神２着！！　３着御剣、４着後木だああああ！！！！」

◇

　＜レース結果＞
　優勝　シダ美穂戸
　２着　姫神絵梨菜
　３着　御剣刀
　４着　後木真央
　５着　奈良橋博美
　６着　小山内海
　７着　八神修
　リタイア　桜崎巴、橘勇