最速王は誰だ！寝子島高校雑巾がけレース｜リアクション

最速王は誰だ！寝子島高校雑巾がけレース

●終盤、北校舎

　海は遅れ始めていた。
　芸術科で女子でもある海は、他の参加者に比べて体力に自信があるわけではない。
　海にあるのは。
　＜アクセラレイトライン＞。
　海のろっこん。筆記具で描いた線の軌道に沿って物体を加速させる力。
　すこし先を行く刀をちらりと見る。
（加速のろっこんは、かたなくんの専売特許じゃないんだよ）
　海はあたりを確認した。
　応援のギャラリーは、ゴールに近い上階で待っているのだろう。北校舎１階の廊下は静かなものだ。それに、実況の服部も渡り廊下の確認に行ってしまっている。
（いままで、人目があってろっこんは使えなかったけれど、もしかして今なら……！）
　海は、ポケットからボールペンを取り出し、雑巾の前にラインを引いてみる。
　くんっ、と雑巾が滑るような感覚があった。
（うん、今なら行ける！）
　海は思い切ってラインを引いた。
　片手を雑巾に乗せ、片手でペンを持って走る。その身体は、軌道に乗って加速する！
　刀を追い越す！
「小山内！？」
（ごめんね、かたなくん。でもやるからには真剣勝負、負けない！）
「俺だって！」
　刀は海を追ってスピードを上げるが、彼女に追いつけない。

　海が、体育科集団を躱し、先頭に立った。
「あの子、急に速くなった。もしかしてろっこんか？　今なら使えるってわけか」
　よし、俺も！　――博美が、ろっこん＜トンビの飛翔＞を発動する。
　本来滑空して飛ぶろっこんなのだが、博美は雑巾や手が浮かないように力を加減する。
　するとまるで、飛距離の長いカエル跳びみたいに見えた。
「いっくぜぇ！」
　海、そして博美。ここでふたりのろっこん使いが飛び出す形になった。

◇

「ふうー、北校舎２階です！　ちょっと目を離しとった隙にレースにまた動きがあったようや！　先頭を行くのは小山内、続いて奈良橋！　後木、御剣がそれに続く。前半体力を温存していた姫神がここに来て伸びてきた―！　その後ろに橘！　八神は相変わらずのマイペース。そしてェ！　おおっと、美穂戸がペースダウン！　どうした美穂戸！」
「コン　ただ走るだけ　飽きてきた」
「なんてこった！　美穂戸、飽きてしまった！　美穂戸、がんばれ！　えー、ここからはこの服部もモップ片手に追走したいと思います！」
　実況車よろしく、モップを手にした剛がみんなの後ろを走り始める。
　海のスピードが見るからに落ち始めた。
（あ……ろっこん、効かなくなってきた）
　海は書けなくなったボールペンにそうするようにペン先を振ってみるが……ギャラリーも増えてきたためか、ろっこんの力が戻る気配はない。
（ろっこんの力を借りれるのもここまでかあ……うん、それでも最後まで頑張るだけだよ！）
　その後、誰に抜かされても、海は挫けなかった。
　博美もまた、＜トンビの飛翔＞の効果を失い、自力での雑巾がけスタイルに戻らざるを得なかった。
（っ、まいったな……ろっこんを連続使用しすぎたかな、さすがに……）
　疲れの見える博美も、やや後退する。

　――そしていよいよ、北校舎３階、直線ラストスパート！

このページにイラストを設定する