【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆｜リアクション

【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆

■僕だけを
　シーナ・キュクノスはさっきから気になっていることがあった。
（さっきから、ベルラの視線がフラフラ）
　軍服姿のベルラ・ガーネブラッディ、周りの景色を楽しむ、というよりはどこか『人』を見ているようにしか思えない。
（確かに、華やかではあるけれど……）
　こっそりと頬を膨らますシーナ。
（ちょっとくらい、こっち向いてくれないかな）
　そんなシーナの想いとは裏腹に、ベルラは目を光らせていた。
（あの男、少し酔いすぎのようだな……）
　ベルラとは違う意味で周囲の女性に怪しく目を光らす男の姿を見つける。
「ベルラ、ちょっと食事を取ってきます」
「あぁ」
　シーナが離れた隙に、ベルラは近くを歩いていた星ヶ丘寮スタッフ、八咫鏡へと声をかけた。そして自然にそっと耳打ちをする。
「すまないが、さっきからあちらの男性が危なっかしくてね。少し気を付けてみてやってくれねぇか」　
　軍服姿のベルラの親指が差す方向を見る鏡。
「かしこまりました、お客様。ありがとうございます」
　マントを翻し、鏡は酔った男へとそれとなく近づいていくのを見れば。
「……ベルラ。何してるんですか？」
　冷ややかな視線のまま、いつの間にか横に佇むシーナの姿。
　シーナから見れば、愛らしい少女に見える鏡にベルラから声をかけたようにしか見えず。さらに
「いや、ちょっとな……と、わわっ」
　慌てるベルラに誰かの背中が当たる。
「きゃっ、ごめんなさい」
　ダンス中の女性、初瀬川理緒の身体がぶつかり、咄嗟に彼女を優しく支えるベルラ。
「おっと、大丈夫か？」
「ありがとうございます」
　お辞儀する理緒。現役グラビアアイドルでもある彼女の胸の谷間に一瞬だけ、それはそれはコンマ一秒だけ目を奪われるベルラ。
（ヤバイッ！）
　咄嗟にシーナの方を振り返れば
「……ベルラ」
　シーナの灰色の瞳は氷点下の如き冷たさを纏っている。
　そして、大きく深いため息を吐いた後。
「……ねぇ、ベルラ」
　どこか呆れにも似た口調ながら
「こんな格好で、一曲も誘われないなんて、酷い話だと思いませんか？」
「……！　……すまん、その通りだな」
　ベルラが手を差し出せば、シーナの細い指先が彼の掌に触れる。
　その手を離すものかと、ベルラは彼の手を熱く掴み、シーナの身体を自身へと引き寄せた。そして耳元で囁く。
「踊ってくれたら、機嫌治してくれるかね？」
「……しょーがないですね」
　ツンツンとした表情と言葉ながら、その赤くなった頬は隠せない。
（羽がなくても、シー君はやっぱりわかりやすいな）
　シーナの華奢な身体を包み込み、ベルラは紳士的にダンスをリードするのだった。
（今は、寝子島でのこの時を楽しもう）
　あの頃のことは、今は忘れて。目の前の大切な者の姿だけを瞳に映そう。
（ドキドキしてるの、バレませんように）
　いつも以上に凛々しく、また優雅に舞う師匠の姿に、胸が熱くなり。
　優雅な二人のダンスに、観る者も心をトキメかせるのだった。

　曲が終われば、手は離さぬままベルラは自然にシーナに跪き。
　そのままシーナの手の甲に柔らかなキスを落とした。
　踊ってくれて、機嫌を直してくれて有難う。
　そんな意を込めたキスではあるが、シーナの頬が更に更に熱くなる。
「あ……深い意味はないんだ」
　目を逸らし、そしてスクッと立ちあがったベルラ。
「踊ったら腹が減ったな。何か食べるか」　
　そう言い、食事台へと向かうベルラの背中に向かい。
（こーゆーのを『罪な男』って言うらしーですよ。ねぇ、ベルラ）
　そっと思い、くすりと笑うシーナだった。