われわれはにゃんこである！｜リアクション

われわれはにゃんこである！

■特別編：野良猫転生、タエコ
　白石妙子は多忙な主婦である。
　アラームにせかされるように気だるい身体をベッドから起こし、洗濯機を回しながら食事の準備を始める。
　出かける夫と子供の朝ご飯をテーブルに並べつつも、お弁当をこしらえる。
　彼らが出かけたならば洗濯物を取り込んで畳んで、それでもって干して。家中を駆け回るようにして掃除をして、気づけば昼を過ぎ、簡単に昼食を済ませたらもうひとがんばりだとばかりに食器を洗って夕飯の支度にとりかかる。
　ごく僅かな時間で休憩を挟んだら、帰ってきた家族に夕飯を作ってお風呂の準備を整え、暫くしたら明日に備えて眠るのだ。
　毎日これの繰り返しだ。多少のズレや面倒ごとが追加されることがあっても、このサイクルがなくなることはない。
　もしかしたら永遠に。
　ふと窓の外を見ると、野良猫がブロック塀の上に座ってのんきにあくびをしていた。
「ネコはいいわね。いつ起きてもいいし、家事だってしなくていいし……」
　などと言っていても仕方ない。
　少しばかりのお昼寝をしたら、晩ご飯の準備をせねば。
　今は身体を休めて。
　毎日の繰り返しを……。

「はっ！　アラームなってない！」
　既にあたりが薄暗くなった頃。妙子は驚きに飛び起きた。
　飛び起きて、今度は更に驚いた。
　場は雑草だらけの庭。空き地らしいのか『売地』の看板がたっている。
　それよりなにより、自分の手にはぷにぷにとした肉球が。腕には毛皮が。そして身体は、ネコのそれになっていた。

　慣れない視界と身体をなんとか動かし、自分の家らしき場所にたどり着くも、そこに自分の家は無かった。
　ブロック塀の上に座って覗いた窓からは、知らない主婦が『ネコはいいわね』という顔でこちらを見るばかり。
　はあとため息をつくと、眼下を黒猫が通りかかった。
「お嬢さん。見かけない方ですね。ここはボスの縄張りだ。迷い込んだのなら、あまり近づかないほうがいい」
「ボス？」
　あの方だ、黒猫が示す先にはずんぐりとした巨体のネコ。今にも食ってかかりそうなうなり声をあげて妙子を威嚇していた。
　ひいと悲鳴をあげ、駆け出す妙子。

　走れば疲れ、お腹がすく。
　そんな当然のことに妙子はひどく落ち込んだ。
　町はどこも満員だ。どこにいっても別のネコの臭いがする。それが『よそ者近づくべからず』のシグナルを出し続け、妙子をあちこちへはじき出した。
　ついにたどり着いたスーパーマーケットの裏口で、誰かの縄張りと知りながらもおそるおそる袋を爪で割いていく。
　するとエプロンをつけた男性が妙子をすっと持ち上げた。
「見ない顔だな。新入りかい」
　ふと見ると、ここを縄張りにしているネコたちが威嚇のうなり声をあげている。
　男性は肩をすくめ、妙子を胸に抱いた。
「どうも居場所がないみたいだ。一緒に来るかい」
　妙子は少しばかり考えてから、『にゃあ』とだけいった。
　それをイエスの返事を受け取ったのか、男性は彼女を抱えてドアの先へと入っていく。

　タオルと段ボールできた即席のベッド。
　この先にどんな生活が待っているのかわからない。
　けれどひとまず、妙子はぐっすりと眠りについた。

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あとがき

担当マスター：青空綿飴
ファンレターはマスターページから！

ごきげんよう。ネコはお好きですか？
ネコというのは自由気ままにみえて、シビアな現実の中で自分の立ち位置を計っていたりします。
それは不思議と人間の社会模様に似ていて、ネコになっても『社会との接し方』だけはかわらなかったりするものです。
これはそんな、自由と社会と自分自身を映し出すシナリオでございました。

……なんて言っておきながら、大胆に違うスタイルを作り出す方もいらっしゃるようで。
物事、一筋縄ではございませんね。

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