滝に打たれて　～日帰り体験ツアー～｜リアクション

滝に打たれて　～日帰り体験ツアー～

■まずは普通のコースから
　白装束に身を包んだ旅鴉月詠が滝の前へと立つ。
　小柄な身ながらも達観した立ち居振る舞いから、いつも以上に浮世離れした雰囲気を見せる月詠。
　目の前をゴウゴウとした音と共に流れ落ちてくる水を前に妖艶な笑みを浮かべた。
（弱すぎると『こんなものか』と思ってしまうし、強すぎると溺れてしまうからね）
　滝行の施設の者に注意事項や心構えを聞き、月詠は滝に向かって一礼する。
　そして、その身を水の世界へと滑り込ませた。
（意外と……勢いが強いな）
　月詠の身体を上から押し付けるかのような水の勢い。
　彼女の白く美しい髪がすぐに水分を含んでいく。
　真冬ではないものの、初夏にも届かない春の水はやはり冷たさを感じる。
　水の勢いに負けるわけでなく、己の意思で月詠は腰を下ろし、座禅を組んだ。
　身体中に絶えず降り注ぐ水の矢。
　痛みと勢いに流石の月詠も表情を歪めそうになるが、その感覚は徐々に落ち着いて行くのがわかる。
（ああ。確かに何かを悟れそうな気がするね）
　身体に感じる水圧を感じない代わりに、月詠を刺激するのは絶えずゴウゴウと音を立てる水の音。
　他の全ての音をシャットアウトし、閉じられた赤い瞳は『無』を感じていた。
　その時。
　月詠の身体に稲が走るような感覚を覚えた。
（あれだ！）
　月詠の脳裏に浮かんだのは、学校のプールの……シャワー室。
　キャッキャとはしゃぐ子供達。一心不乱にシャワーを浴びる子供たちの姿。
　一心不乱に水を浴び楽しむ邪気のない楽しそうな笑みが月詠の脳内キャンバスに思い描かれる。
（彼らは子供の頃から既に悟りを得ていたのだな）
　
　滝行を終え、滝壺からゆっくりと上がってきた月詠。

　渡されたタオルで身体を拭く彼女の後姿は、より達観した姿に見えた、と係員は言ったという。