滝に打たれて　～日帰り体験ツアー～｜リアクション

滝に打たれて　～日帰り体験ツアー～

■帰りのバス
　かくして。
　帰りのバスが到着し、皆が乗り込んでいく。
　バスガイドのクリさん（93歳）は、やっぱり乗車した際と現在の参加者の変化には気づかぬ模様。

「黒崎先生。よろしければ、温かいお茶、いかがですか？」
　七星が柔らかな笑みと共に俊介へと声をかけた。
「あぁ、天満さん。ありがとう、いただくね」
　滝行で起こったことはなんだったのか、これは夢なのか？と思いつつ受け取ったお茶の温かみにホッコリとした笑顔を返す俊介。
「黒崎先生は、何か悟りとることはできたでしょうか？」
　柔らかな笑みと共に、七星が俊介へと語り掛ける。
「そうだね……正直、予想以上の冷たさと痛さで、それに耐えることしか考えられなかった気がするね。天満さんはどうだったかい？」
「私ですか？ ……そうですわね……」
　口元に手を充て、眉間に皺を寄せ。真剣な表情で考え込む姿を急かすでもなく見守る俊介。
「私も、無心になることはできませんでした。でも」
　

　七星は笑む。
「一筋の光のように、指針となるものが見えた気がするのです」
「そうなんだね。それは素敵なことだね」
　俊介が目尻を下げる。
「それにしても、黒崎先生も凄い筋肉ですわね……」
「皆に比べたらそこまででもないんだけどね」　　
　後ろではマッチョメン化した男子生徒たちが休憩室同じくウッキウキのムッキムキではしゃいでいる始末。
　正直そこまで筋肉憧れてる人多いとは思わなかったからビックリだよ。
　
「ライヘンバッハの滝くん、いい加減そのＴシャツと筋肉しまってください」
　帰りのバス。相変わらず胸の大きな梢さんだが、それ以上に相棒である庚の筋肉っぷりに拒絶反応がバッシバシな模様。
「いやＴシャツはともかく筋肉しまえねぇから」
「仕舞う気ないんですね！と、いうことは不自然に黒光りさせて歯だけ白く輝かせて『今晩俺とどうだ？』って迫ってくるわけですねこの野獣！」
「おい」
　全く……と思う庚だったがバスが進むにつれてまた体内が疼き始めるのを感じ始める。

　そして暫くすれば、車内で沸き起こる落胆の声。
「あっ、あぁあ……俺の世界平和のための筋肉が……ッ！」
　膝から崩れ落ちる竜次。
「まゆ先生に見せたかったのに……」
「あ、安心してください冴木先輩。写真ならここに……！」
　修がデジカメに収めたデータを竜司に見せる。
　修自身もやっぱりなぁ、と落胆ぷりは凄まじい。
（神魂の異常だから戻ってしまうんだよなあ……。貧弱な坊やにさようならは夢に終わったよ）
　

　突っ伏しそうな勢いではあるが、撮影した写真を目標とすることも視野に入れる力強さも持ち合わせている。
「まぁ、これで俺の脱ぎっぷりも最速に戻れたわけだ！」
　明るい笑顔を見せる武道、写真に収められただけで満足な模様。

　亮も明らかに落胆した、が。
（……やはり元の体に戻ったか）
　己の身体をペタペタと触る。それはそれで筋肉質ではあるが
（まぁ、筋力だけで勝負が決まる訳でもないし、俺なりの戦い方を探せば良いか）
　サキリとの腕相撲対決を思い出し、頷く亮。
（……とは言っても、基礎体力は重要だよな）
　明朝の日課のランニング、少しだけ距離を伸ばそうかと思う亮だった。

　かくして、梢の胸も小さくまとまり、庚の筋肉も平常運行となったわけで。
「ライヘンバッハの滝くん」
「もうそれ止めろ」
　胸が小さくなったことに落胆を見せるのかと相棒を見れば
「……私、いつもの如月君のほうが良いと思いまーす」
　やっと見せた梢の笑み。
「……俺も、いつもの屋敷野の姿の方が……」
「これは悪いカミサマに封印されている仮の姿です」
（こいつ……真顔だ……）

　そして水樹さんは帰りのバスも、心地良い余韻とバスの揺れに頬を紅潮させつつ、なんだかんだリフレッシュできた模様でした。
　何はともあれ、いつもの自分が一番いいよね！

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