■コーデバトル新時代
　ジェネレーション。
　それはコーデ界における絶対の壁。
　バブル時代のイケイケファッションが２１世紀生まれの女子高生に刺さらないように、大人たちの女子高生ファッションのイメージがルーズソックスで止まっているように！
　世代間に存在するファッションの壁。それはいかなるコーデでも破れないとされてきたが、しかし……！
「それを破る時が、今！　くふふふふふ、くくく、ふふふふふ……！」
　真っ黒いマントとフードで全身を覆い隠したアケーチ・タッマーキが、くねくねと身体をくねらせる。
　それはまるでセミが抜け殻から飛び出すように、蝶が繭から羽ばたくように、読んで字の如く――！
「変・態――！」
　マントを解き放ったアケーチ。彼が見せたのはウェディングドレスだった。
　そう！
　男性でありながら、ウェディングドレスを着こなしているのだ！

「なんてコーデ力……！」
「私たちの服装が、まるでおかしいみたいです……！」
　メリィ・ランページとリリエル・エーテライトは、アケーチの放つ嵐のようなコーデ力に圧倒されていた。
　彼女たちとてコーディネイター。
　メリィの野性味と幼さ、そしてどこか育ちの良さを兼ね備えたコーデは並大抵のコーデ民をひとところになぎ倒すだろう。
　特にマーチングバンドのようなきっちりとした上着にどこか幼げなボトムをあわせ、しかし水玉もようのデニールのあついタイツをはくことで子供ながらに強さとしなやかさを持たせるコーデは荒野の百人斬りと言われたほどである。
　メリィのちょっぴり癖のあるロングヘアとそこから一房だけ伸びる黄色い虎めいた髪を見るたび、コーデ民たちは震え上がるのだ。
　リリエルも同じだ。北欧に暮らす深窓の乙女がごとく美しくまとめた髪と幼い顔立ち、しかしながら既に母性を感じさせる豊かな身体は見る者を赤子へと還し、背に伸びる翼があろうとなかろうと彼女を天使と見まがうことは確実である。
　そんな彼女を包むのは腰をきゅっとしめたワンピース。そしてふんわりとしたフリルに飾られたドレスだ。細い腰にあえて巻かれた大きなリボンは、しかし彼女の母性をより強く引き立たせるコーデとして成立している。
　百人に一人、いや一万人に一人のコーデ力の持ち主である。
　そんな二人が今、アケーチ一人に圧倒されていた。
「ウェディングドレスを……それも冗談やコスプレ用じゃない！」
「本気の、それもお姫様が着るようなドレスです。薄く清らかな布。淑やかでしかし神秘的なベール。そして何より飾り気が無いにもかかわらずまぶしく光るスカートドレス。それを、まるでこの人のために存在しているかのような着こなしで……！」
　そう、ウェディングドレスとはあらゆる世代に通用するジェネレーションブレイカー。しかもそれを男性が着こなすとあれば、全世界が着目せざるを得えまい。一万人どころではない。一億、いや百億人に一人のコーデ力なのだ。
「一生に一度の晴れ姿。純潔。無垢。純真……！　白の象徴するその全てが私と同化しているのです！　さあ、あなた色に染まる準備は万端ですよォ！」
　くねくねと身体を更にくねらせるアケーチ。
　男性がウェディングドレスを着るのはおかしい。誰だってそう思う。一言聞けばそう指摘するだろうし、なんなら馬鹿にする者だっているだろう。
　だがアケーチの見せるその純粋きわまりないボディと魂は、ウェディングドレスを着るこそが相応しく思わせるのだ。
　どころか、ただ女性であるだけで、ただ結婚しただけでウェディングドレスを着る風習に疑問を覚えてしまうほどだ！
「女性の尊厳が喪われていく……」
「だめだよ、こんな所で、負けるわけにはいかない！」
　メリィは薄れゆく意識のなかで、手探るようにリリエルの手を掴んだ。
　リリエルもまた、メリィの手を強く握りかえす。
「やるよ！」
「……はい！」
　覚悟の燃える二人の瞳。
　アケーチは、その瞳に僅かな恐れを抱いた。
「何をする気です！？」
「二人のコーディネイターが手を取り合ったんだよ」
「することは、ひとつのみ……」
　天空が。
　大地が。
　太陽が。
　月が。
　渾然一体となるこの一瞬。
「「クロス・コーデ！！」」

　青天の霹靂。
　メリィはリリエルを。
　リリエルはメリィを。
　お互いがお互いを想い、プロデュースしあう前人未踏の秘技。
　――クロスコーデ！
　メリィはそれまでのファッションとは打って変わって、フリルスカートにメルヘンチックなブラウス。そしてしっぽにはレース生地のリボンがつき、今にも生クリームたっぷりのお菓子の家から飛び出しそうな甘々なファッションに包まれた。
　そこへどこかお嬢様めいた羽根突き帽子とエナメルの靴。ソックスはあえて短い無地の白。
「リリエルのコーデ力が流れ込んでくる。キュートでふわふわ……これが、あたし！？」
　一変したのはリリエルも同じだ。
　それまでの天使めいたファッションとは打って変わって、黒いレースのヘッドドレスに黒バラが咲き乱れ、まるで黒い密がこぼれ落ちるかのように顔の半分を覆っていく。
　綺麗にまとめていた髪はあえて下ろし、赤いリボンが胸元へおりた横髪にふわりと重なる。
　纏うドレスはゴシックドレス。それも幼げな印象を破壊するかのごとき大胆でオトナなゴシック調だ。
　今にも広大な薔薇園を擁するお城から現われそうな、それはそれは荘厳で気高いコーデである。
「これがメリィちゃんのプロデュース……新しい私！」
　二人のコーデ力がアケーチのドレスを消し飛ばしていく。
「なんという奇跡！　二人はコーディネイターでありプロデューサーでもあるというのですか！　宇宙一のコーデをたたえ合い、施しあう……まさに……！」
　ドレスの消し飛ばされたアケーチは、全身をソフトに緊縛した縄に包んだ。
　その姿、まさに――！
「愛……！」
「「変……！」」
　びくっとするメリィとリリエル。
「変……変態だ！」
「変ではありません、愛です！」
「変ですよ！」
　心が浄化されたアケーチは身体をくねくねさせながら打ち震えた。
「宇宙一のコーデは共存することができる。ああ、なんという革命。新時代……！」
　リリエルとメリィはお互いのコーデを見つめ、そして握った手を再び強く握りなおした。
　コーデは己のためだけにあるのではない。
　誰かに施すことで、また新しいコーデが生まれる。
　そのことを、彼女たちは証明したのだ。

　宇宙が再び回り始める。
　神のコーデ力を持つコーディネイターたちが、お互いのコーデを交換し合う光景が想像できようか。
　宇宙一が共存しあうこの世界が、幻想できようか。
　そしてコーデが宇宙を、回り続ける！