■宇宙にコーデあれ
　ここはならず者たちの楽園、惑星エンドレスハダァレ。
　コーデ力を用いて惑星を支配せんとした愚か者たちは自らの星をコーデの力で焼き尽くし、そして自らもまた焼かれていった。
　後に残ったものは枯れ果てた永遠の砂漠。あらゆる化粧品とファッションを喪った人間たちは皆ぼろきれを纏い、平均肌年齢は９０歳を超過した。
　唇がひび割れ、血を流す子供たち。
　そこへ訪れるのは、惑星に残り少ないファッションを着こなしたコーデヒャッハーたちである。
「ヒャッハー！　化粧水だァ！」
　頭から化粧水を被り、札束に火をつけて遊ぶコーデヒャッハーたち。
　彼らの足にすがりつく老人。
「やめてくだせえ！　これは最後のコーデなんですじゃ！」
「うるせえ！」
　蹴り飛ばされる老人。彼が這いつくばり、コーデが奪われるのを黙ってみているしかないと悲しみに唇を噛みしめたとき……。
「はーっはっはっはっは！」
　空が虹色に輝いた。
　雲がバラの形に整い、空からローズヒップオイルが降り注ぐ。
「こ、これは！？」
「神……コーディネイターのコーデ力！」
　天空より舞い降りし美の化身。
　辺り一面の砂漠が一瞬にしてバラ園と化し、老人の肌年齢が五歳にまで若返った。
　舞い降りた神の名は――。
「あれは、花椿 涼太郎！」
「なに！？」
「さぁ、僕のコーデをみるがいいよ！」
　天空に指をさす涼太郎。
　すると途端にして惑星がバラの香りと潤いに満たされた。
　人々の肌は潤いバラ色のドレスとスーツが行き渡り、コーデヒャッハーたちは涙を流して改心し世界から飢えと争いが消し去られた。
「この星にも神が……新たなコーディネイター様が舞い降りたのか……！」
「だが危険だ。逃げるのです涼太郎様！　あのお方には……天 雲日様にはかないませぬ！」
「なんだって？　僕の他にもコーディネイターが――」
　言うや否や、惑星は突如として爆発した。
　神の雷とも言うべきか、惑星崩壊規模の力は銀河をも焼き尽くし、ついになにもない宇宙空間だけが残された。
　否、涼太郎――と、天 雲日だけが！
「君は……！？」
「ふふ」
　長い前髪を指でなぞり、雲日はどこか妖艶に笑った。
「私はゼウスにしてヘラ……雷と美の輝きに焼かれるがいい」
　雲日を包むは重厚なフリル。それも透明な宝石が連なる星雲がごときコーデだ。薄灰色の生地は方や袖をうっすらと覆い、同色の長手袋をした手が宙を撫でればそれだけで銀河が焼き尽くされていく。
　それだけではない……。
「銀のラインが入ったつば広帽子に、クリスタルのヒール……なんて大胆なコーデなんだ」
「驚くのはまだ早い」
　帽子のラインを撫でるやいなや、雲日の纏う宝石たちが星々のように輝き始めた。無限の移ろいと光の魔術。
　その美しさは、雲日そのものを宇宙たらしめていた。
「そのファッション、焼き尽くしてあげる」
「くっ、この光は……宇宙誕生の――ぐあああああああああ！」
　光に焼き尽くされる涼太郎。
　神は消えてしまうのか。戦いは決してしまったのか。
　否――！
「ああああああ――っはっっはっは！　ついに見せてしまったようだね。僕の真なるコーデを！」
　全てのファッションを焼き尽した筈の涼太郎。その姿を見て、雲日は半歩下がった。
「ファッションでは……ない？」
「そう、これは――ボディペイントッ！」
　足を揃え、両腕を広げて胸を張る涼太郎。
　十字の姿勢ははじまりの光条となり、銀河を再び創造した。
「僕にファッションなんて必要ないのさ。磨き尽くされた肉体こそが、真なるコーデ！」
　涼太郎の光に呑まれた雲日。
　……に見えたがしかし！
「言ったはずよ。私はゼウスにしてヘラ。オリュンポスコーデはほんの一面に過ぎない……」
　宇宙に突如として生まれたブラックホール。まるで試着室のカーテンを開くがごとき穏やかさでブラックホールを破ると、雲日は新たなるコーデを見せつけた。
「それは……闇のコーデ！」
「私のコーデは光だけじゃない。闇すらも使いこなすのよ。名付けて、テュポーンコーデ！」
　ドレスはダークグレーへ染まり、肩や脚を包んでいた布は翼のように展開。惜しげも無く晒した素肌があらゆる光――つまりは人々の視線を吸収していく。これぞ闇、闇のコーデなのだ！
「輝くのは宇宙に私のみでいい」
　ドレスが暗雲を生み、涼太郎を覆い隠していく。
　いかなる光も覆い隠されてしまえばコーデにあらず。
　それはただの、『隠れたもの』にすぎない。
「ぼ、僕は……僕のコーデは……！」
　途端、暗雲を無数の光が貫いた。
　現われたのはボディペイントを洗い流された涼太郎。
　磨き抜かれた肉体に集まる視線はまさに闇。しかし惜しげも無く全てをさらけ出した肉体を直視できずに両手で目をかくしつつも指の間からチラッチラ見てしまうその様子は光と闇が一体となった――カオスのコーデ！
「そんな、まさか……私の闇コーデまでもが……！」
　全てを飲み込まんとしたブラックホールが巨大なバラの形となり、銀河をバラの香りで満たしていく。
　コーデ力を奪われ、人の身へと堕ちる雲日。
　大地に膝をついた彼女に、しかし、要所要所をバラの花びらで奇跡的に隠した涼太郎が手をさしのべた。
「君のコーデ、素晴らしかった。その美しさは、僕に並ぶかもしれない。また、僕と戦ってくれるかい」
　さしのべられた手をあえて取らずに、雲日は自らの力で立ち上がった。
　落ちてきたつば広帽子を手に取り、不敵に笑う。
「当然。人の身からでも、神に至ってみせる」

■女子高生、神に至れり
　神聖コーデ学園。バスケ部二年の羽生 碧南は部でも有名なバスケットボールプレイヤーだ。
　１８０に至る高身長と芸術的なまでに洗練されたボディバランスは、試合のたびに男女問わぬ歓声を浴びた。
　しかしそんな碧南にも悩みがあった。
「このキャラも、１５０センチか……」
　乙女ゲーをプレイするたび、その主人公は小柄で細身。重い物なんて持ち上げられないか弱い少女ばかりだ。
　どんなに感情移入をしようにも、身長差がそれを許さないのだ。
　身長１７０センチのイケメンに見下ろされながら壁ドンされるには膝立ちでもせねばならないという事実が、文字通りの足枷となる。
　勿論高身長かつ細身の彼女が着れる服など限られている。ジャージの他にはだぼついたシャツくらい。
　そんな彼女がある日出会ったのは、オトナコーデのファッションショップであった。
「これは……」
　高身長のマネキンが着用していたマキシ丈のワンピース。
　黒一色に整えられた記事は、歩くたびにふわりと揺れることだろう。
　お小遣いをはたいて早速着用。
　町を歩けば、道行く男たち全てが振り返った。
　碧南に隠されたセクシーな魅力が、ワンピースというコーデによって引き立たされているのだ。
　こうなれば止まれない。碧南はネックレスと平たいシューズを買い込み、自らを控えめに飾っていく。
　それは――。
「素体の美しさを最大限に高めるためのナチュラルコーデ。セクシータイプのナチュラルコーデだなんてね……」
　ふと背後から声をかけられた。
　銀のつば広帽子を被った、ドレス姿の女性だ。
「気づいてる？　もうきみは、神域に――コーディネイターの域に達していることを」
「コーディ、ネイター……」
　振り返れば、碧南の歩いた足跡が黄金に輝いていた。空は晴れ渡り鳥は歌い、男たちはミュージカル映画の如く歌って踊りながら彼女をたたえている。
「人の身から神に至ったその力、試させてもらおうか」
　帽子を撫で、今再びコーディネイターの域へ達した天 雲日は目を光らせた。
「光と闇を併せ持った、新たなるカオスコーデを身につけたこの私が！」
「……！」
　身構える碧南。
　今、人から神へと至る階段が、二人の前に現われたのだ……！