あの日のあとで２｜リアクション

あの日のあとで２

　暑い、と不意に感覚が自分の身体に戻ってきて、鴻上彰尋は目を覚ました。
「あ、れ……俺……」
「やっと正気付いたか、鴻上」
「おーらいつまで寝てんだよ、置いてくぞー」
　獅子目悠月が細く息を吐き、来島アカリが「置いていく」とは言いながら彰尋が身を起こすのに手を貸す。
　彰尋、この段階ではまだぼんやりする頭に何が起こったのかとクエスチョンマークを浮かべていたのだが、
「彰尋くん、大丈夫？」
　と心配顔の七夜あおいに顔を覗き込まれて、全てを思い出した。
　頬が、勝手に火照る。
「……うーん、まだ顔が赤いかなぁ？」
「いや、これは、あの……うん、何でもない、から」
　たどたどしくそう言って、ごめんね早く出ようと彰尋は悠月とアカリに促した。
「そうするか。幾ら扉を開けたとはいえ、いつまでもここに居るのも敵わないしな」
　悠月が頷き、「じゃあ行くぞ」と立ち上がったアカリが部屋の出口に向かって歩き出す。
　そうして４人は、戦いの舞台を後にした。
　廊下の窓を開け放ちながら、アカリが言う。
「そういや、この後どうするんだ？」
「この後、って？」
　彰尋の問いに、くるりと振り返るアカリ。
「獅子目とは引き分けだったけど、鴻上と七夜に負けたことには変わりねーだろ？」
　だから奢ってやるとアカリが言えば、
「そいつと同意見なのは遺憾だが、負けは負けだし勝負は勝負だ」
　と、悠月も榛色の双眸で、悠然として一行を見回した。
「んじゃ、獅子目と割り勘、ってとこかな？」
「いいだろう。店は……寮の近くにケーキ屋があったな、そこでいいか？」
「って、ちょっと待てよ、寮の近くってことはつまり……」
「勿論星ヶ丘だが。何が悪い」
「そんなん出せるわけねーだろ！　いくらすると思ってんだ！」
　一般的男子高校生の懐事情を弁えろっつーの！　と、アカリが叫ぶ。
　テンポのいい掛け合い（？）に彰尋とあおいが思わず顔を見合わせる中、
「仕方がないな……来島に合わせてやる」
　と、悠月が譲歩。
　やれやれ、といった調子の悠月を、釈然としないと雄弁に語る顔で睨むアカリだったが、
「まあとにかく、手頃なとこで七夜の行きたいとこがあんならそこでどーだ？」
　なんて、気を取り直すようにしてピンクの眼差しをあおいに遣って尋ねた。
　あおいが、くるりと目を丸くする。
「へ？　私？」
　その反応に、傍らの彰尋は思わずくすりとしてしまう。
「あっ、今、彰尋くん笑ったでしょう？」
「いや、その……折角優勝したんだし、気になる店があるなら遠慮なく言っちゃえばいいと思うよ」
「気になる店かぁ……うーん、ありすぎて決められない……」
　真面目な顔で考え込むあおいの姿に、彰尋は、今度は彼女に見咎められないよう、密かに口元を緩めた。
　そんな２人の顔を代わる代わる見ていたアカリが、声を上げる。
「じゃあさ、キャットロードに美味しいケーキ屋があるらしーって聞いたんだけど、そこはどーだろ？」
「わ、いいね！　大賛成！」
　アカリの提案に、あおいがきらきらと瞳を煌めかせた。
　その様子に目を細めて、「それじゃあ皆で行ってみようか」と彰尋。