恋愛シミュレーション・らぶねこ！｜リアクション

恋愛シミュレーション・らぶねこ！

■柚瀬玲音ルート
　朝起きて椅子に座り、コーヒーを片手におはようと声をかける。
　妻や彼女ではない。パソコンディスプレイに表示された柚瀬玲音の壁紙である。
『僕は百人以上の女の子とゲーム上で恋愛をしてきましたが、本当の恋だと思えたのは玲音せんせーだけですね』
　玲音せんせー。
　先生ではなくひらがなと長音記号で表記することを強く主張した彼は、プロギャルゲーマーのＴＫＧ氏だ。
　数々のギャルゲー攻略やレビューをのせたブログで莫大なアフィリエイト収入を得る氏が語る、真の恋とは。

　まず恋とはなんだろうか。
　人を好きになること。緊張して心拍が高まること。勝手な妄想にふけること。性的に興奮すること。どれも否だとＴＫＧ氏は語る。
『恋は子供を大人に変えてくれます。いや、変わらなくてはと気づかせてくれるんです。玲音せんせーは、それを僕に教えてくれました』
　そう言って起動した『らぶねこ！』のセーブデータは、玲音ルートの序盤のものだった。
「よーしおまえらー！　授業はじめるぞー」
　木箱を踏み台にして教壇に立つ玲音せんせー。控えめにいって小学生なみの容姿ときんきんとする声からは、子供が無理をして先生ごっこをしているように見えた。
『見ていてください。ここからですから』
　氏が見せたのは動画編集したダイジェストシーンである。
　居眠りする主人公の頭を出席簿で叩く玲音せんせー。
　進路の悩みを聞いてくれる玲音せんせー。
　家庭の事情を察してくれる玲音せんせー。
　どんなからかいも引き受けて、皆をまとめてくれる玲音せんせー。
　それは紛れもない教師の姿だった。
『人を見た目で判断してはいけない。僕が玲音せんせーから最初に教わったことです』
　氏は清らかな子供の目で画面を見つめていた。
　シーンは進み、玲音せんせーを映画に誘うパートへと入った。
『玲音せんせーが教師であると同時にひとりの女性で、カッコイイ男性にひかれるということが分かるシーンです』
　かっこよさにひかれているのはむしろ主人公の方だったが、その語りを受けて普段と違う表情をすることで間接的に表現されているようだ。見事な演出である。
『玲音せんせーにとってカッコイイ男になる。それがこのとき僕がたてた目標です。けどそれは簡単じゃなかった』
　アクション映画のような格好良さはリアルにはない。テロリストも現われない。
『だから、僕は学生生活をかっこよく生きることにしました。環境に美味く溶け込むことで、別のかっこよさを見つけたんです』
　そう語る氏の目には、真剣な大人の光があった。
　しかしゲームのラスト。
「今はキミの先生だし、まだ時期じゃないから」
　玲音せんせーはそう言って主人公の告白を断った。
「だから、いつか未来に」
　まるで先を思わせるようにスタッフロールへと入っていく。
『僕はあの時まだ子供でした。玲音せんせーにつりあう男にならなくちゃ、告白の続きはできないんです』
　氏は改めて言った。
『玲音せんせーは、僕を子供から卒業させてくれました。いつかちゃんと告白できるように、大人になれるように、日々努力しています』

　恋は人を大人にする。
　ＴＧＫ氏は、今日も努力を重ねている。

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