人生の転換期｜リアクション

人生の転換期

☆何かの冗談？

　真境名アリサが今の店に勤め出したのは２年前だった。
　二十歳になったばかりの頃で、ブラック企業から逃げ出した後派遣の仕事を転々としており、ちょうど次の仕事を探しているときのこと。
　木天蓼市内のある会社の面接を受けた帰りにスカウトされた。
「水着ガールズバー『ジュエル』？」　
（水着ってどういうことなの？　お客さんが水着着る……わけじゃないよね？）
　故郷の沖縄の海が浮かんだ。よくわからないけど興味が湧いたのは確かだった。
　その時は結果待ちということもあり断ったけど、名刺だけは貰った。
　結局店を訪れて面接を受けたのは結果が出る前。
　そして件の会社からはお祈りメールが来た。
　仕事の内容は一日中水着を着て接客と聞いてさすがに面食らったけど、給与やその他待遇は今までと比べてかなり良かった。
　思い切って働くことにした。
　やってみると、仕事自体はハードだが、幸い人間関係の面では今までで多分一番快適に近い職場だった。
　オーナーも店長も同僚も悪い人はいなかったし、お客もいい人が多かった。こういう店だしスケベなのは仕方ないが。
　中学・高校と体操をやっていた経験がポールダンスの習得に役に立ったということもある。

（給料も昇給して結構もらって、ある程度貯金もできてるけど……）
　将来への不安がないわけではない。今の仕事なんてどうしても若いうちしかできないし。
（あと１、２年ってとこかな。通信教育か何かで資格でも取ろうかな……）
　とか思っているうちに、今夜も仕事だ。　
　いつものようになじみのお客さんと楽しく話し、踊り、そつなく仕事を終えて帰ろうとしたら同僚が呼びに来た。
「店長に呼んでるよー」
「え？　何かヘマした？」
（あたしクビなの？）
　身に覚えがないとはいえ、焦る。
　お客さんによっては信じられないことでクレームをつけてくる相手もいないわけじゃない。
「来たか。実はな……」
「え？　何かの冗談でしょ？　……って本気……？」　
　副店長への昇格、と店長は確かに言った。
　エイプリルフールには早すぎる。
　確かに副店長は空席になっていたけれど、あたしが？
　返事をすることも忘れて、アリサは突っ立っていた。
「悪い話じゃないだろ？　給料もそれなりに上がるよ」
　店長は上機嫌に見えた。
　怠惰で能天気でその場のノリで生きているように見えるアリサだが、意外に現実主義的で特にお金と男を見る目はシビアだ。
（本当なんだ）
　評価されているのだ、と感じた。
　そんなふうに呼ばれる自分の姿は、まだ想像できなかったけれど。
　

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