ある日の部室の困りごと｜リアクション

ある日の部室の困りごと

「さーてボクのばーんー」
「部長、頑張ってくれ」
（ここで負けたら、部室が取られてしまう）
　必死に応援する亮。
　緊迫した展開だが、円はリラックスして勝負に臨んだ。
「桜庭さんファイト～」
　ねむるがセコンドにつく。
「おう、ちょっと、そのお腹の袋のオプションやめてよ」
　相手カンガルーのお腹の袋から、可愛らしいカンガルーの赤ちゃんが身を乗り出している。
「カンガルーの赤ちゃんもグローブつけてやる気満々じゃん！」
　１４０ｃｍと小柄な円に対し、カンガルーママは１６０ｃｍはある。
　相手のほうが身長があるのはいつものことで、円としてはボディを狙いたいところなのだが。
「赤ちゃんどいて！　ボディ狙えない！」
　もちろんどいてくれないどころか、赤ちゃんもパンチを繰り出してくる！
「こなくそー！」　
　とりあえず、上半身とか、赤ちゃんを避けつつ対抗してみるものの。
「やめて！　赤ちゃんのパンチ地味に痛い！」
　うちの子のパンチはどう？　と言わんばかりにドヤ顔で攻めてくるカンガルーママを見ながら、円は考える。
（はっ！　赤ちゃん分のウェイトを抱えてるってことは！）
　ひらめいた。
（とりあえず距離稼いで疲れさせよう！　策に溺れるとはこのことだな！！！！　って違う？）
　インファイトメインの円だが、立ち回りの為にアウトボクシングも練習している。
　そう……リングの大きさを意識しつつ立ち回るのだ。
　右に左に蝶のように舞い、ママカンガルーを翻弄する円。
　しかし、ママカンガルーは動じない。育児で鍛えているのかスタミナはかなりのものだった。
「これが、母は強しって奴か……」　
　スタミナ切れする前に勝負に出るべきか？　円が考え始めた時。
「チャー」
　赤ちゃんカンガルーが泣きだした。
　急に母親の顔になり、子供に気を取られるママカンガルー。
「もらった！」
　赤ちゃんを避け、円のパンチが決まった。
「チャー！」
　赤ちゃんの泣き声に、ママカンガルーはもはや戦意喪失しているようでおろおろしている。
「勝った……かな」

「すみませんー、またたび動物園の者ですが」
　突然武道場に、動物園の作業着を着た青年が現れた。
「さっき通報しておいた」
　全体が見渡せる２階でスケッチを仕上げながら月詠が言う。
「あっ、またたび動物園の職員さん？　連れて帰ってくれますか……有難うございます」
　円が職員さんにカンガルーたちを託す。
　おとなしくなったカンガルーたちは、グローブをはずし三人と握手？　を交わした。
　そして職員に連れられて帰っていった。
　置いていった部室の権利書？　を開くと、ただの白紙だった。
「なるほど、神魂の仕業かな……」
「どうなるかと思ったが、部室を取り戻せてよかった」
「……抜け毛がたくさん、掃除しよっと……」
　あっけない幕切れに、三人は武道場の掃除を始めた。　

　こうして、神魂による部室の困りごとは無事終結した。
　月詠の描いたカンガルーとの試合のスケッチは、その後ボクシング部の部室に飾られたという。
　
　　

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