夢世界とチョコの妖精｜リアクション

夢世界とチョコの妖精

　星ヶ丘寮の一室、三宅葉月はベッドに横になるとゆっくりと眼を閉じた。
　心地よい眠りの中、ふとどこか遠くで小鳥のさえずりが聴こえた気がして葉月が目を開けるとそこは見慣れた自室ではなく見たことのない森の中だった。
「ここは……どこ？」
　生い茂る木々の隙間から日光が差し込んでいた。
「確か夜だったはずよね」
　寝ている間に何者かの手によって移動させられたのではという疑問が頭をよぎったがそんな考えも微かに漂ってきた甘い香りで掻き消えてしまった。
　その香りを辿って森を進むとやがて開けた場所に出た。
　そこにあったのは噴水のようにチョコが湧き出る泉、そして同世代くらいの男子二人の姿だった。

「噂はほんとだったんだな」
　鎌八まもるが泉のチョコに触れようと手を伸ばしたその時。
「ちょっと待ったー！」
　まもるの頭上に突如硬い木の実が降り注いだ。
「いたっ！　何なんだいったい」
　まもるが振り返るとそこに居たのは二人の小さな妖精。
　ひらひらとしたドレスや髪色がそれぞれ黒と白の妖精達が指を一振りするとまもるの上にさらに木の実が降り注ぐ。
「かったいかったい椎の実よ。これでもくらって頭を冷やしなさい！」
「見たところ妖精のようだけれど、君達は一体何者なんだい？」
　冷静に状況を分析していた八神修は相手を刺激しないように優しく声をかけた。
「アタシはクロ！」
「私はシロ……」
「シロとクロ……それにこの森、どこかで……」
　何かが葉月の頭の中で引っかかっていた。
　つい最近どこかで見たような、しかしその疑問に答えたのは意外にもまもるであった。
「あの絵の妖精たんだ！　絵で見たのより艶やかでいいね。ゆれるポニテがそそる」
　まもるの目線はクロをロックオンしていた。
「絵？　そうか美術室に飾られていた」
　修も納得したようだったが当の本人であるクロとシロは絵のことなんて知らないようで。
「なんのことを言ってるのか分からないけど泉のチョコが欲しければアタシ達と勝負よ！」
「私達をつかまえたらチョコを分けてあげます……」
「いや、チョコは別にいい。あーなら君をつかまえたらそのポニテと泉のチョコでポニチョコフォンデュでもしようかな？」
「ぽ、ポニチョコフォンデュ？　へ、変態！」
「はは、変態だって？　失礼だなー。せめて変態と書いて紳士と読んでほしいね」
「あなた達に勝ったらここから元の世界に帰れるの？」
　変態なまもるを放置して話を進める葉月に今度はシロが答えた。
「も、元の世界とかはよく分からないの……」
「そう。まあ何にせよ試してみないと始まらないわね」
「可愛らしい妖精達の提案に乗るのも一興だ」
　そう言って柔軟を始める修。
「必死で逃げな。その方がオレも楽しい。つかまったらポニテなめられると思え」
　舌舐めずりこそしなかったが言っていることはほぼ変態のそれであるまもる。
「ふふん、いい度胸ね。それじゃ始めるわよ。よーい！」
　ドンという音は聞こえなかった。
　代わりに3人の視界は突然の閃光で閉ざされた。
　再びあたりが見えるようになっていた頃にはシロとクロの姿は三人の前から消えていたのだった。
　

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