死と隣り合わせの節分～鬼はフジコ～｜リアクション

死と隣り合わせの節分～鬼はフジコ～

●桜さん家で戦争デス！
　桜月はどこかそわそわとして、訪問者を待っていた。
「ふふ、今日は一緒に豆まきだ」
　大切な友人とのひと時が待ち遠しくて、月の顔からは笑顔が絶えない。
「せっかくなら、衣装も考えておけばよかったな」
　上機嫌にそんなことを言う。待ってる間に鬼をモチーフにした服のデザインを考えてみたが、これがなかなか難しい。
　参考用に書き写してみた「だっちゃ」が口癖の鬼の娘衣装は、こう言ってはなんだが際どいし。
「う～ん」
　そうこう考えていると、インターホンが鳴った。待ち遠しい来客が来たのだ。月はいそいそと向かい、扉を開けた。
「いらっしゃいふ――」
　月は「ふ」から始まる来訪者の名を呼ぼうとした。
　ところがどっこい「フ」ジコである。
「ハァイ」
　死を感じさせる吐息に、月の反射的に絶叫した。
「じぇのさいだー☆フジコ！？　またお前か！」
　慌てて扉を閉めようとするが、何かに遮られる。フジコが足を扉の隙間に差し込んでいた。
「鬼トシテ、貴女ノ氷像モライニ来マシタ」
「ひっ……」
　以前氷漬けになった記憶に身の危険を感じ、月はろっこんを発動する。影を使ってフジコを全力で突き飛ばす。
「ううっ、彼女と節分の豆まきしようと思ったら、なんでこんな目に」
　月は室内に戻った。ふらりとよろける。目眩がした。影には扉を閉めさせたあと、幾重ものロックをかけさせていく。さらに扉を塞ぐバリケードを張らせた。
「これで少しは時間を稼げ――」
「ツーキーチャン、アッソビマショ♪」
　ドン！　ドン！　ドン！
『雪だるま（月の氷漬け）作ーろー？』な感じで扉を叩いてくる音に、月は青ざめて奥へと駆け出した。

「そうか、豆……豆が必要なのか！」
　ネット経由で島の状況を察した月。慌てて豆の袋を開けにかかるが、恐怖で上手くいかない。
「焦るな、急げ、焦るな」
　自分に言い聞かせながらニ人分の豆を用意する。
　――私と影で一緒に豆を投げつければ、威力は単純に二倍だ。
　きっと何とかなる。
　なんとかなって！
「こんな所でやられるか。私はこれからも彼女と一緒に過ごすんだ」
　自らを鼓舞した瞬間、破壊音が響いた。
　バリケードが破られたのだ。

「死ニ化粧ハオ決マリ？」
　ルンルン気分で廊下を歩いてきたフジコに、影が立ち塞がった。
　豆を持っている。
「無駄ヨ、ムダムダ！」
　嗤ったフジコが駆ける。月は彼女が通り過ぎた部屋のベッドから飛び出すと、サイボーグの背後から豆を投げる。タイミングを合わせ、影も豆を投げる。
「ギィイヤアア！！」
「やったか！？」
「――見ィツケタぁ！」
「やってない！？　あ、諦めるものか、私を舐めるな！」
　首だけ振り向いて後退してくるフジコに、部屋に入って扉を閉める。即座にブチ破られた。
「デス・ハグデス！」
　月は悲鳴をあげた。フジコホールドを影を盾にしてかわす。影は身悶えしながらへし折られた。
　その隙に月は豆をぶつけ、フジコにダメージを与える。
「う、動きを止めて豆をぶつけないと……！」
　月は逃げながら、そこら中の家具や小物を手当たり次第に投げつけた。
　さすがにスケッチブックや衣装は影に運ばせる。自分の中にある想いが形になったものは、自身と同義。自分を失うわけにはいかなかった。
「もう、あっちに行って！」
　手にした最後の豆がフジコに当たった。同時にロケットパンチが発射される。
　月が別の部屋に飛び込んだ直後、爆発が巻き起こった。
　じぇのさいだー☆フジコを倒したのだ。
「ああ……部屋が」
　戦場跡に等しい室内を、呆然と見つめる月。
　――彼女を呼んで片付けないと。
　そう思いながら、フラフラと無事だったベッドに倒れこむ。
「だけど、その前に少し眠らせてくれ」
　とんだ豆まきだと思いながら、彼女の意識は闇に飲まれていった。