＜月華＞トワイライト・スターダスト　～甘い星は島を蝕む～｜リアクション

＜月華＞トワイライト・スターダスト　～甘い星は島を蝕む～

「うぅ、完敗ですわ……」
　星華は、虎の耳を伏せて泣きそうな声でそう言った。その可愛さに美咲紀はへにゃ～ん、と微笑み星華の耳と頭をなでなでしていた。
「君は、元々白虎族だったのかい？　呪いのことも知っている。俺としては君たちの事も助けたいんだ」
　修が真摯な思いで星華に問いかける。相手の事情と心を理解しなければ解決口は見つけられない。修としては、何とか星華や上司の本音を聞きたかった。
　星華はしゅんとしたまま、ぽつりぽつりと語る。
「助けたい、だなんて今更ですわ。呪いのよって死に、魔物と化した私たちを救うものなんて、きっと無いのです。愛憐様も私たちを半分だけしか救えなかった事を悔いていらっしゃるのに」
　しっぽを弄りながら語る星華に、今度は瓢が問いかける。彼もまた少し気になる事があるらしい。
「影の貴人は、呪皇の呪いによって半分救われた状態って聞いているよぃ。……なら、もう半分、おたくの恨みが晴れたとき、完全に救われるって事になるが、そうなるとおたくは一体どうなるんで？」
　彼の問いかけに、星華は僅かに表情を険しくする。少女は唇を一度噛むと、ぽつり、と呟く。
「考えたことすら、ありませんでしたわ。おそらく、その恨みが晴れたと実感できたら……魂が開放されて巡りに戻ると思うのです」
　星華はそれだけいうと、優雅に淑女の礼を取った。
「愛憐様たちに黙って出撃して大敗してしまった私です。恐らくこれ以降会わない可能性が大きいでしょう。しかし、帳姐様をはじめとする貴人は手ごわいのでお気をつけあそばせまし」
　星華は思い出したかのようにもう１つ付け加える。
「愛憐様は、寝子島の住人達を警戒している一方、期待もしていらっしゃいます。どうか、裏切らないで下さいましね？」
　彼女はそういい、鉄扇を一振りする。途端に甘い香りがし、全員の意識が一瞬真っ白に染まった。

　気がついたとき、一同は地上に戻っていた。そして、星華の姿も消えていた。あれだけ積もっていたドロップは皆、光の粒となって天へと昇っていく。だが、瓶の中に入っている物は淡い輝きを放つだけでそのまま残っていた。
「これは、どうするの？」
「いや、白鋼に渡そうと思う」
　紫の問いかけに、修は静に答える。太陽は沈み丁度月が昇ってきていた。門は開かれる。
「それじゃ、あたしも挨拶がてら同行しようかしら？」
「私も行きたいですっ！」
　蛇那伊と美咲紀の言葉に修は頷く。突如現れた扉を潜り、月光世界へと向かった。
　残った者たちは挨拶を交わし、互いの健闘を称えて家路に着く事にした。

　全てが終わり、恵御納夫妻は娘の夏朝と共に空を見上げていた。
「どうにか、解決してよかった」
　夏朝の言葉に理紗は頷く。久隆は愛しい妻と娘が無事に戻ってきた事が嬉しくて、そっと２人の肩を抱いて、
「よく戻ってきたな。……安心したよ」
　と静に呟く。３人は顔を見合わせて笑い、暫らくの間静かに夜空を見上げていた。
　暫らくして、桜花寮付近まで娘を送る。寮へと帰っていく娘の背中を見送りながら、理紗が手を振る。その傍ら、久隆は安堵したように表情を僅かに緩めた。夏朝の姿が見えなくなったところで、理沙が何かを思い出す。
「あっ、チョコを渡しそびれてしまったわ……」
「また、今度渡せば良い」
　しょんぼりする妻を抱き寄せ、久隆はやんわりと言って車に向かった。
　風は冷たくも、寄り添うぬくもりに安堵する。その仄かな幸せを2人で噛み締めていると……どこからともなく黄砂交じりの風が飛んできた……ような気がした。

　不思議な事件はココで幕を閉ざす。だが、呪皇・愛憐という存在が確かに寝子島の住人……主に『もれいび』に対し危機感を抱いている事実に、彼らは色々と考えさせられるのであった。

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