猫鳴館、自治会長選任戦｜リアクション

猫鳴館、自治会長選任戦

●土曜日の雪見さん

　午後１時。
　寮の玄関に現れた大福を、如月庚が呼び止めた。
「よう。こんな時なのに出掛けんのか？」
「……俺は寮費集めのための行動はしない。無理矢理徴収したって何の意味も無いだろ」
「ふむん、なるほどな。で、どこ行くんだ？」
「……パーティの買い出し。明日はパーティの料理作りをしようと思うから」
「俺は、五月になって給料も入ったわけだが……そのバイトが地味においしくてな」
　庚のバイトはかの悪名高き（？）美食クラブの表向きの顔、会員制クラブのウェイターだ。
「会費ってこんなに安かったのか、という気分なわけだ……つーわけで雪見、自治会費だ。受け取れ」
　逆巻でも良かったんだが……と庚は胸の内で考える。家事も出来るし、雪見の方が人に塗れ慣れてる、と思ってな。すまん逆巻。
「如月……」
　６ヶ月分５４００円を差し出した庚に、大福はちょっと意外そうな顔をした。庚は鼻の頭を掻く。
「理由なんざねぇよ。お前ならやれるんじゃねぇか……そう思っただけだ」
「……さんきゅ」
　大福は礼を言って寮費を受け取った。そこに、大量のカードを手にした桃原空音が飛び込んできた。
「みんなー！　猫鳴館のパーティーの招待状をデザインしたのだ！　猫モチーフのおしゃれな招待状だよっ！」
　空音は、はいっ、はいっ、と大福と庚にもカードの束を渡す。
「これ、パーティに来てほしい人に配ってね！」
「仕事早ぇな。選任戦が告知されてからまだ１時間だぞ……あんた、たしか寮生じゃなかったよな」
「寮生じゃないけど、猫鳴館は好きだよっ。だから猫鳴館のいいところアピールのため、全員楽しめるパーティを作らなきゃ、って思ってね！　自室のコピー機で刷ったのだ！」
「自室のコピー機……すげぇな」
「寮生みんなで手当たり次第に配ればきっといっぱい来てくれるよ！　じゃ、他のみんなにも配りに行くから！」
　楽しそうに走ってゆく空音の背中を見ながら、庚は先日「寮を見に行く」とメールをくれた従姉に、改めてこのカードを送ったものかどうか思案する。
　大福もまた、その愛らしい猫のカードをじっと見つめ考える。――買い出しのついでに、星ヶ丘寮に寄ってみようか。この招待状でパーティに来てもらえたらいいよな……、と。

●土曜日の後木さん

「陸上部と自分のクラスから回ってコツを掴むのだ！」
　そう考えた真央がやってきたのは、黙っていれば細マッチョな陸上部の先輩、冴木竜司の部屋だ。
「センパーイ！　真央ちゃんにご協力おねがいしますなのだー！　てーい！」
　ばーんと扉を開けて部屋に飛び込む。そのまま頭突き気味にフライディングボディアタック。竜司は成す術なくしがみ付かれ、マウントポジションを取られる！
「どわー！　ギブ、ギブ！　俺ははじめっから後木に入れるつもりだったって！」
「ほんとなのだ！？　それはごめんなのだ」
　真央は身体を解いて謝る。
「部活の後輩を支援するのは先輩として当たり前だろ？　後木は俺から見ても努力家の人柄良しだからな。応援してやりて～訳だよ。……決してロリコン体型で紅一点だっただけで選んじゃないぜ」
「竜司ちゃんセンパイ……！」
　どわーっと感涙する真央に、竜司は寮費とティッシュを渡す。
「鼻水拭いとけ。涙もな。俺は、後木に俺の６ヶ月分５４００円を託すぜ！　バイトしてる先輩の経済力舐めんな。先輩からの餞別として受け取れや。代わりに絶対当選しろよ、後木」
「はいっ、真央ちゃん頑張るのだ！　竜司ちゃんセンパイには、がおーを思い切り撫でまわす『ふれあい猫の旅』プレゼントするのだ！」
　真央は「にゃにゃにゃがおー！」と叫んで両手を丸める。
　彼女のろっこんが発動し、愛らしい三毛猫「がおー」が召喚された。
　がおーより幼女……と竜司が思ったかどうかは定かではない。
　ともあれ、がおーとのふれあいののち、竜司はこんな先輩らしい台詞を送った。
　
「頑張って競い合えよ、少年少女たちよ！」

このページにイラストを設定する