にょきっと飛び出したよう、というか、ここだけ無駄にパースが効き過ぎというか。
雑居ビルの一階がある日突然、どーんと突き出すインパクトのあるものに変わっていた。ずっと布で覆われていたものが、さっと取り払われたのだった。
店だ。
飲食店だ。いやもう、もったいつけるほどでもないからさっさと明かすとインド料理店だ。
最近都会でぞくぞくと増えているという本格インド料理店、それがついに……かどうかはわからないが寝子島にも(きっと)初登場したのだ。灼熱の国の味をあなたに、というやつである。
その名は『ザ・グレート・タージ・マハル』。
グレートを名乗るは伊達ではない。看板にはタージマハルがどかんと躍り、壁にもインドの神様がずばばんと描かれ、ナンとカレーとタンドリーチキンがどんどんどーんと盛られた写真が立て看板を飾っている。あらゆる柱はゾウの彫刻つきで、これはもう大変なパオーン感だ。
強烈なのはビジュアルイメージだけではない。前を通ろうものならもう逃れられないだろう。店からはスパイシーでエキゾチックで、そして魅惑的な香りが漂ってくるのだった。カレーの匂いだけではなかった。シナモンの香りやヨーグルトの香りもしてくるはずだ。軽く焦げたような香ばしいのは、きっとナンを焼く香りだ。
当然、店主もフロム・インディアである。名を
アーナンド・ハイイドといって、バシッと白いコックコートにコック帽が大変似合うナイスミドルだ。焦げ茶の肌に真っ白な歯、口ひげのたぐいは生やさぬさっぱり顔、年齢はきっと五十前くらいだろう。
店構えはわりと、いや、かなり押しが強い部類に入ろうが、ハイイドさんはどっちかというと物静かな職人風であった。現時点では手伝いはおらず、店は一人で経営しているという。
このカレー店がオープンしたのは、つい先日のことだった。
ハイイドさんは今日も洗い立てのコックコートで厨房に立つ。おだやかな笑みで「いーらっしゃいまっせー」というつもりで待ち構えている。
11時開店。
……けれど誰も、姿を見せない。
開店初日、二三組ほど客があったのだが、以来かなりの閑古鳥なのである。昨日なんて来店者はゼロだった。
最初に来た女性客は、なんだか真っ赤な顔をして出て行った。次に来たサラリーマン二人組は、日替わりカレーセットを注文して一口食べたとたん、会話が絶えた。
まさか不味いのだろうか、ハイイドさんはとても心配した。
インドで何年も修行して鍛えた味だ。日本では開店資金が貯まるまでアルバイト三昧であったため料理をふるまった記憶はあまりないが、人気のインド料理店をリサーチし研究は続けてきたので、腕は衰えていないという自負がある。
材料はできるだけいいものを選んでいるし、ナンの焼き方には細心の注意を払っている。
なによりカレーには、ほとんど神がかり的な情熱を傾けてきた。辛さを選択制にせず、『オリジナル』一本でやっているのも自信の表れだった。
それなのに――ネガティブになりかけたハイイドさんは、壁の隅のミニコンポに手を伸ばした。
どうも悩んでいると暗くなる。店内音楽はインドのコメディ映画のサントラでもかけよう。思わず踊り出したくなるようなものを。
……だが、彼が手に取ったのは演歌(もちろん日本の)のCDだった。
「うっ!」
なぜここに、とうなりそうになる。なぜなら彼は演歌を聴くと、つい悲しい思い出が蘇って号泣してしまうからである。このCDは好きだったが、もう二年ほど聴いていない。
気を取り直して明るい音楽をセットすると、ハイイドさんは外に出た。
店がかなりバッドなスタートを切ったのは、宣伝が足りなかったからに違いない。
そこで本日ハイイドさんは、表でチラシ配りをすることにしたのだった。チラシは手作り、昨夜半分徹夜で刷ったカラフルなA5サイズの紙である。
ランチがお得、本格インドの味! このチラシを持ってきてくれた方にはワンドリンクサービス! さあどうだ。
ハイイドさんはさっそく、前を通りかかった大柄な男性にチラシを渡した。
「来てくださーいね! お店、すぐそこよ」
なお男性が足を向けてくれたら、ダッシュで追い越して店で待つ予定である。チラシ配りを雇えぬ悲しさよ。
「…………」
ぼさぼさの長い髪、そして達磨ひげの男性は、手元のチラシに目を落とした。
カレー……。
インドカレー……か。
はっきりいって大がつくほどの甘党である自分が行って、大丈夫だろうか――と、
伊織 源一は思った。
*****************************
さてそこから少しだけ離れた街角。
「ママー」
と足元から声をかけられても、
相原 まゆはまさかそれが、自分に向けてかけられた声だとは夢にも思わなかった。
だから、
「ママー」
服の裾をつかまれてぎょっとした。
そこにはエスニックな顔立ちの、とてもかわいらしい子どもがいたのである。肌は褐色。年齢は三歳から四歳くらいか。
「ママを探しているの? 迷子かな?」
きょろきょろとまゆは周囲を伺ったが、あいにくとこの子の母親らしい女性はいない。
「……ママ」
そして半べその子どもは、あろうことか、
「え?」
まゆを指さしたのだ。
「ママ」
「ええー!?」
インド料理店では必ず辛さMAXを選びます! 桂木京介です。
(辛いもの全般が好きなのではなく、インドカレーは辛いのが好きなのですよ)
現在私は『【ハロウィン】寝子島ハロウィン☆デイズ!(仮題)』を準備中ですが、少し時間的余裕ができたので、軽いお話を展開したいと思います。よろしくお願いします。
■概要
日常でコメディなシナリオを考えております。
オープンしたてのインド料理店『ザ・グレート・タージ・マハル』を中心にしたドラマ……となりますでしょうか。
●『ザ・グレート・タージ・マハル』のメニューについて
すぐわかったと思いますが、この店のカレーは辛すぎます。辛さMaxが好みの私でも、涙目で「モノには限度というものがある……」とつぶやくような辛さです。一口食べるだけで汗が噴き出し舌が暴れるような激しい辛さを想像してください。ただし、大変美味ではあります(辛くなければね!)。
ランチセットは日替わりカレー(本日は豆のカレー)とサラダ、タンドリーチキン、ナンとミニライスとなっております。結構ボリュームがありますがナンはおかわり自由とのこと。熱々でおいしいです。ナンやチキンは辛くないので、辛くないものだけ食べて撤退するという方法もあるでしょう。
ドリンクはチャイ(ホットかアイス)、ラッシー(飲むヨーグルト。アイスのみ)、紅茶かコーヒーです。
大人の方にはインドビールの小瓶もあります。
●「ママー」と呼びかけてくる子どもについて
女性かつ大人のキャラクター限定(※)で、店の近くにてこの子に「ママー」と呼びかけられるという展開を選ぶことも可能です。
この子はハイイドさんの子で、「おうちに帰ろう」と店のほうへ引っ張っていこうとします。営業活動をしているのではなく、本当に母親だと思っている(?)ようです。
※女性に見える外見の方なら男性でもオーケーです。小さい子から見た「大人」なので、高校生や中学生でも「ママー」と呼ばれる可能性があります。
●演歌のCDについて
間違ってかけてみるとハイイドさんがどうなるか、反応を見てみてもよいでしょう。
うまく水を向ければ身の上話を聞くことができるかもしれません。
軽くとっかかりを用意してみましたが、もちろんアクションは自由にあなたらしいものを歓迎いたします。
辛さに悶えるもよし、店に有意義な提案をするもよし、「くお~! ぶつかる~!! ここでアクセル全開、インド人を右に!」と意味不明発言をするもよし、ライトなシナリオなのであまり悩まず気軽に楽しみましょう!
■NPC
以下のNPCが登場する可能性があります。
七夜 あおい:気軽に来てしまい辛さに涙目になります。
詠 寛美:もんのすごく辛いカレーであっても、平気な風を装い必死で我慢して食べていることでしょう。
相原 まゆ:「ママー」と子どもに呼ばれてうろたえます。
■NPC関連のご注意
展開によっては登場しないNPCもあります。また、相手があることゆえ必ず希望通りの展開になるとは限りません。ご了承下さい。
NPCと行動を絡めたいかたは、そのNPCとはどんな関係なのか(まったくの初対面なのか知り合い程度なのか友人なのか等)、また文字数に余裕があればこれまでの経緯等も書いておいて下さい。お願いいたします。
それでは、次はリアクションでお目にかかりましょう! 桂木京介でした。