夜。それは静かな安らぎの時間。
生きとし生ける者達に与えられた休息の時間ともいえる。
まあ、例外はあるにせよ、基本的には寝静まっているであろう夜遅く。深夜。
寝子島上空高高度に歪みが生じた。
高さで言えば、旅客機などが通る空域の更に上。成層圏離脱ギリギリの高さである。
それは始めは小さなものであったが、次第に大きくなっていく。
空間が歪んだように見えるそれは、一定まで大きくなるとガラスの割れたような音を発する。
そう、空が割れたのである。
割れて見えるその奥には赤い世界が広がっていた。そこにいたのは異形の軍勢。
物語に出てくるようなゴブリン、オーク、ガーゴイルに始まり、巨大な魔物や
見た事もないような大きな空飛ぶ船等が次々と寝子島上空に侵入してきたのである。
大挙して押し寄せた異形の者達……魔物の中心にいる二人の人物。
片方は女性で少しあどけなさの残る幼めの少女。
一見すれば戦いなどとは無縁なように見えるが……ローブから見える巨大な大鎌が
彼女が戦う者である事を示していた。
「いやーなかなかにいい世界ですね。空気はおいしいし、眺めはいいし。
いかにも平和! って感じです」
大仰に身振り手振りをつけて話す彼女の動きとは対照的に男性の方はほぼ動かずに口を開いた。
「そう平和だ。何も知らず……与えられる事に疑問も抱かずに享受する。
ただ、ただ流される。それだけのくだらない生き物が存在する世界だ。
いい空気? 眺めがいい? 関係ないだろう……これから破壊する世界等、興味を持っても無駄に過ぎん」
「もー、楽しむのって大事ですよ? 人生楽しみが必須です。
仕事仕事ばっかりじゃいつか気が滅入ってしまいますよー?」
「……しらん」
眼鏡から覗くその冷たい瞳は冷酷に町を見下ろしている。
その視線に彼女の様な観光的な気分は一切ない。
何処を破壊すれば的確か、作戦行動に支障のありそうな建物はあるか、考えるのはそういう事のみである。
「行くぞ、イヴァ。お喋りはここまでだ」
「待ってくださいよっ! ハガル様っ!」
魔物達に先駆けて彼――ハガルは地表に向けて急降下していく。
手始めに誰を血祭りに上げようか……そう思っていたのだが彼の動きが寝子島上空で止まる。
高さ的には花火が撃ちあがった時に炸裂するような高さのあたりで、地表には程遠い。
見えない床に阻まれ、彼はそれ以上先に進むことができない。
「これは……っ!」
ハガルとイヴァと呼ばれた少女は突如煌めいた閃光に目が眩む。
直後、衝撃波。身体を投げ飛ばされたかのように寝子島上空成層圏近くへと吹き飛んでいく。
何とか体勢を立て直し、彼が先程の場所を見るとそこには光に包まれた女性が立っている。
青色の長い髪は腰まで伸び、白い薄手のローブに包まれたその姿は神官を連想させた。
「やはり来たか……テューア!
我らの活動の邪魔を手駒を使ってしていたようだが、
流石に今回ばかりは自ら出向いてくるしかなかったようだな」
テューアと呼ばれた女性は強い眼差しでハガルに対して口を開く。
その表情に怯えはなかった。魔族の軍勢を前にしても彼女は凛とした態度を崩さない。
「そうですね、引っ張り出されたというか……出るしかなかったというか。
でも、まあいいでしょう。お話している間に準備が整いました。
貴方達はこの島に……世界に干渉できません。私がいる限りは……ですけどね」
彼女が身の丈以上もある長い杖を振るうと、一瞬寝子島上空が煌めいた。
それは見えない床。寝子島の「フツウ」を守るために、彼女が張った結界である。
地表から見えるのは割れた空ではなく、魔物の軍勢でもなく、何の変哲もないいつもの空。
何処までも続く見えない床が完全に寝子島上空と寝子島を分断していたのである。
「涙ぐましい努力だな……この軍勢、たった一人でいつまで止められる!」
彼が腕を振るうとその動きに合わせ、ガーゴイルやオーク、ゴブリン達で構成された軍勢が大挙して彼女を襲った。
焦った様子もないテューアが杖を振るうと、白い閃光が放たれ退去する軍勢を
大きく吹き飛ばす。
「さあ、いつまででしょうね。ただ……私一人ではないですよ?」
彼女の背後に召喚される者達がいた。
それは――――――――。
――――ふと肌寒い感覚に目が覚める。
確かいつも通り寝ていたはずなのに身体を包む布団の感覚はない。
寝ている間にはいでしまったのだろうか。目をつぶりながら手さぐりで探すが……周囲には
布団はおろか壁や床さえないように思える。手ごたえが何もないのである。
ならば、自分は今どこで寝ているのだろうか。
恐る恐る目を空けるとそこには神官の様な白い服を着た青い髪の女性の後ろ姿があった。
彼女には見覚えがある……そう、異世界に自分達を飛ばしてきた張本人である。
いつもは少し話して問答無用で異世界に送られるのだが……今日はそういう事ではないらしい。
見れば、彼女の目前には魔物の大軍勢がいる。
それらが大挙して押し寄せてくるのだが……彼女が放つ光に押し戻される様にして
吹き飛んでいく。実に「フツウ」ではない光景であった。
「あら、目が覚めましたか」
振り向かずにテューアが話しかけてくる。
いまだ眠い目を擦りながら、その話に耳を傾けた。
「状況を詳しく説明している暇はありません。彼ら……リベレイターが寝子島に侵攻を
開始しました。本来は侵入される前に防ぐのですが……間に合いませんでした。
私の力で今この寝子島上空は見えない床に包まれています」
上空にいるという事を信じられず、下を見るとそこにはいつもの寝子島があった。
手を伸ばすと、見えない何かに阻まれる。見えないのだが床がそこにあるようであった。
確かに見えない何かの上に居るらしい。
「見えないといっても、効果を発揮するのは朝までです。
この場所が異界として存在していられるのは人々が寝静まった夜の間だけなのです。
朝になり朝日が昇る前に彼らを押し戻し、割れた空を復元して塞がなくてなりません」
杖で彼女が指し示した所には大きく割れ、地獄の口の様に開いた大きな穴があった。
今いる床の上からかなり高い位置に存在しており、ざっと1000メートル程は
離れていそうである。魔物達はそこから侵入しているらしい。
今もオークやゴブリン、見た事もない機械がその穴から出現し、地表に向かって
急降下してきている。
不思議と体は軽い、いまならば魔物相手でさえも後れを取るような気はしなかった。
ジャンプしてみるとふわりと身体が空中に浮かぶ。
ある程度なら自由に空を飛べるようだった。
この場所の不可思議な力のせいなのか……いずれにせよ、なぜ飛べるのかは
分からないが空中から襲いくる魔物との戦いにおいてこれ程ありがたいものはない。
ある程度飛べることを確認すると透明な床の上に降り立った。
結構な硬さを持っているらしく、透明で見えないがまるで金属の上に降りた様な
感覚を足で感じる。
ふと目の前に台座が出現していた。そこに並ぶのは、
剣、盾、弓、杖、銃であった。
やはり好きな物を取れという事なのだろう。
戦うのは本意ではないが、寝子島を守る為には今は戦うしかないようだ。
覚悟を決めると、その内の一つを手に取る。
すると他の台座は細かな光の粒子となりあっという間に消えてしまった。
自ら選んだ武器を手に、魔物の軍勢と向き合う。
全ては寝子島の「フツウ」を守る為。
今、世界を守れるのは自分達しかいないのだから。
【マスターコメント】
お初の人もそうでない方もこんいちわ、ウケッキです。
今回のお話は寝子島上空での空中戦となります。
正体不明の不可思議な力により、誰でもある程度空を飛べるようになっていますが、
元々空を飛ぶろっこんを持っている場合、更に上手く飛ぶことが可能となります。
力と力のぶつかり合い、相手を押し返し、穴を塞ぐことが最重要目的です。
なお最終防衛ラインである見えない床はテューアが瀕死となる、
または朝日を受けると消失してしまいますのでご注意を。
事前にテューアが説明してくれた情報を下記に纏めておきます。
みなさまの作戦行動のお助けとなれば幸いです。
◆テューアの用意した武器
軽い剣
:細身で振り回すのが容易い剣。斬るにも突くのにも適している。
持ち主の生命力に反応し、生命力が低くなるほどに切れ味が増す。
なお、使用者に突き刺し、引き抜くと一時的に大剣の姿へと変化する特性を持つ。
大剣の維持時間は使用者の精神力に準拠する。
分厚い盾
:白く輝く装甲を持つ分厚い盾。
魔法や炎等に強い耐性を持ち、一時的ながら小範囲(人間二人ほど)の防護バリアを張る事も可能。
重い為に力のない者は使う事が難しい。
輝く弓
:魔法の矢を放つ光の弓。
一緒に小瓶がついておりそれぞれを飲むことで一時的な属性付与が可能。
その際は対応した属性に強くなり、矢がその属性に変化する。
炎の小瓶、氷の小瓶、雷の小瓶がそれぞれ一個ずつ付属しており
飲んだ際の属性付与の時間は3分。一度飲むと3分立って解除されるまでは他を飲んでも効果がない。
なお、小瓶の味は……すこぶる不味く、飲み干さなければ効果は出ない。
緑の杖
:何の変哲もない木の棒に緑色の淡く光る植物が絡み付いた杖。
振るえば周囲の対象の傷を癒やす事ができる。
傷を癒やす事は可能だが、体力や失った部位を復活させることはできない。
また自分の生命力を対価に周囲の者達を一気に全回復させる
オーバーヒーリングという特性を持つが、使用者は生命の危機に瀕する為使用には注意が必要。
闇の銃
:紫に発光するラインが装甲に走る意思を持った銃。
連射しようが普通に撃とうがその弾が尽きることはない。
なぜならその弾は使用者の生命力を弾に変えている為である。
その為、使用するには高い生命力が必要であり、ある種の生き物ともいえるこの銃に
認められなければそのまま生命力を食いつくされてしまう事も。
しかし、真に味方とすれば軍勢を一気に焼き払うだけの力さえも発揮する事が可能となるだろう。
■登場人物
名前・ハガル
:リベレイターの首領。冷酷無比な性格であり、敵に情けをかけることはない。
細身で物静かな見た目の印象と違い、武人の様な戦いを好み、卑怯な策略を嫌う。
自ら前線に赴き、味方を鼓舞しながら戦うその強いカリスマ性は瀕死の軍勢さえも
死を恐れぬ凶悪な戦闘集団に変えてしまうほどなので注意が必要。
戦闘時は魔法陣を伴った大きさの様々な剣を展開。
魔法力を使用してそれを飛ばしたり、転移させて不意を突いたり持って戦う事もある。。
本人の移動方法は瞬間移動。移動の直前や、加速の際は魔方陣を足場にしてそれぞれ行う。
名前・イヴァ
:リベレイターの副官。人生楽しむことが信条の少女。
見た目は幼いが、身体はなかなかに育っておりその色気で知らずに相手を誘惑してしまう事も
ハガルを心の底から信頼しており、彼の意思に背くことはない。
戦いも楽しいという事で大好きな為か、幹部でありながら後ろに控えている事をせず
常に最前線に出ている。
楽しむためなのか戦いの際は、相手をすぐに殺したりはせずある程度痛めつけ、
わざと立ち向かってくるように仕向けることが多い。
戦闘時は刃は大きめで先端に槍、刃の反対側には斧を配置した大鎌を振るって戦う。
その武器の大きさに似合わず腕が見えなくなるほどの高速戦闘を行う。
・ゴブリン
:亜人種。人の腰ほどの高さしか背がないが、集団で行動している為戦闘力は侮れない。
ある大きな戦いの際のデータを基に強化改造が施されている。
短い剣や棍棒、弓などで武装し、簡単な鎧を見に纏っている。
本能に忠実で色気に弱いので、色仕掛けや食料を用いた罠には簡単に引っかかる場合も。
・オーク
:2メートルは超える大きな体を持った亜人。
ある大きな戦いの際のデータを基に強化改造が施されている。
集団ではなく個別、または三人ほどで行動している場合が多い。
長い長剣や槍で武装し、弓などの遠距離武器は持たない。皮膚が堅く鎧の役割をしている為か
ゴブリン達の様な鎧は身に着けていない。
知能がそこそこに高く、罠の類は見破られてしまうが魔法や不可思議な力に弱い傾向がある。
・ガーゴイル
;石の身体を持つ空飛ぶ魔物。ある大きな戦いの際のデータを基に強化改造が施されている。
その手には鋭い槍を持っており、一撃離脱戦法を得意とする。
更には簡単な魔法も使用する為、離れていても注意が必要。
また地上に落とされると獰猛となり、槍を捨て爪と牙で襲い掛かってくる性質を持つ。
物理攻撃に対して強い耐性を持ち、魔法にもある程度耐える強敵。
・飛行船
:ゴブリンやオークが操縦する空飛ぶ船。
武装は船によって違うが、マシンガンやショットガン、大砲等が積まれている。
大型の輸送船の様な物や、戦闘機の様に速度を上げ小さく作られた物など種類は様々。
中の人員さえ掃討すれば奪い取ってしまうことは可能。
・タイタス
:巨大な魔物であり、その姿はビル一個分にも相当する。
動きがゆっくりなかわりに耐久力が非常に高く、並みの攻撃では歯が立たない。
攻撃力も高く、振るう拳に当たってしまえば無事では済まないだろう。
遠距離武器は持っておらず鎧も装備していない為、攻撃を与え続けるか弱点を探しそこをつくのが有効。
・ローパー
:液体が主成分の軟体生物。
触手の様に身体を伸ばす攻撃は動きが遅く、特に脅威となる毒等の類も持っていないが……油断すると
寄生されてしまう。
体内に侵入された宿主は自由を奪われ、ローパーの意のままに操られる。
万が一寄生された場合、引き剥がすには宿主が行動不能になるまでのダメージを与え
たまらずに口からローパーが出てきた所を掴んで引っ張り出すのが有効。
敵はテューア目掛けて進軍しており、軍とはいっても統一性はなく、大挙して押し寄せているだけで
部隊編成などは行われていない。それぞれが個々に行動し、数で押し切る腹積もりのようである。
なお、時間と共に穴は広がり敵の数は増えていってしまう。
◆現在の侵入数
ゴブリン
:30
オーク
:15
ローパー
:3
ガーゴイル
:20
飛行船
:大型0、中型2、小型5
タイタス
:0
◆場所と位置
テューアのいる最終防衛ラインを高度0とし、横から見れば
下記の様な配置となります。
-------------------------------------------------------- ●成層圏
◆異界の穴 ・高度1000m
◆ローパー
◆中型船
◆中型船
◆ハガル ◆小型船
◆小型船
◆オーク ・高度500m
◆ゴブリン
◆ガーゴイル
◆イヴァ
◆小型船 ◆小型船 ◆小型船
◆テューア ◆PC初期位置 ・高度0m
-------------------------------------------------------- ●見えない壁