早朝の駅のホームで人々が電車を待っている。何人かはコートを着ていた。その一人、猫背の男性が寒そうにポケットに手を忍ばせて怪訝な表情で引き抜いた。
手の中には年代物のライターが握られていた。なんで、と男性は呟いた。ホームの柱には『終日禁煙』の文句が貼り出されている。その影響もあるのか。手早くライターをポケットに収めた。
男性は虚ろな表情で電車を待ち続ける。
女性は朝から洗濯に追われていた。物干し竿に家族の衣服が掛けられ、一息入れる間もなく掃き掃除に勤しむ。家具の作り出す僅かな隙間に箒を突っ込み、執拗に掃き出した。これは、と女性は目を見張る。灰色の綿状のゴミに混ざってペンダントトップが出て来たのだ。ピンクの真珠をシルバーの波が囲う。
摘まみ上げた女性はペンダントトップを掌に乗せた。少し目を潤ませて強く握り締めると、自身の額にそっと当てる。
「……ありがとう」
誰に対しての言葉なのか。女性は噛み締めるような時を過ごした。
夜の九時を回った。机に向かっていた女の子が顔を上げた。両手を上げて大きく伸びをする。
言葉にならない声を漏らし、勢いのままに戻った。瞬間、手がノートの上の消しゴムを弾き飛ばす。
「やっちゃった」
女の子は机の下に潜り込む。すぐに消しゴムは見つかった。その奥に棒状の物体が横たわる。思い切って手を伸ばし、掴み出した。
「魔法のステッキ?」
数年前に流行した玩具のステッキで、勉強の邪魔になると母親に取り上げられた物だった。
久しぶりに手にしたステッキで女の子はポーズを決める。その瞳は当時と同じように輝いていた。
失せて久しい物が、ふとした切っ掛けで人々の手に戻ってきた。
――当時の記憶と共に。
今回のシナリオはアイテムを切っ掛けにして、各PCが「過去を振り返る」物語になります。
アイテムは無生物に限定します。
神魂がPCの心に働きかけることで、アイテムの形となる一方。偶然に見つける場合もあります。
以下に大まかなアクションの流れを説明します。
① 平日の晴れた一日(舞台は寝子島で屋内屋外を問わない)。
② アイテムの出現(出現場所は自由。アイテムに特殊な能力の付与は禁止)。
③ アイテム入手後の行動(回想、または実際の行動。NPCの絡みはNG)。
簡単ではありますが、説明は以上になります。
本作のリアクションの公開を経て、実際にアイテムを作るかどうかは各々のPCさんにお任せします。
神魂の影響で束の間の存在として消失しても構いません。偶然の発見で、ずっと手元に残してもいいでしょう。
思い出がギュッと詰まったアイテム、あなたにはありませんか?