寝子島タブロイド――通称
寝子タブは、寝子島ローカルの週刊ゴシップ誌である。オカルトや超常現象ネタも多数載っており、その信憑性が低さにも関わらずコアなファンに支持され続けている雑誌だ。
寝子タブをペラペラ流し読みしていた
桜庭 円は、とある記事に目を付けた。
翌日はよく晴れていた。学校が終わると円はすぐに、先輩であり幾度かともに冒険をしたこともある
坂内 梨香を誘ってちょっとした探検に出ることにした。
星ヶ丘教会から天宵川に沿って北上し、途中の獣道を九夜山の方に折れる。
どんどん深くなってゆく藪を抜ける。先客がいるのか、下草は踏み均されている。
「いったい……どこに連れて行く気なの?」
梨香が尋ねると、円は肩ごしに振り返って答える。
「あ。もしかして今週号の寝子タブ、見てないんだ? 面白い記事が載っててね……」
「もったいぶらずに教えなさいよ」
「あはは……まあ、見てよ!」
目の前が急にひらけ、定規で引いたように綺麗な直線でできた緑の丘が現れた。
高さはちょうど円三人分くらい。
そんなに大きなものではなかったが、四角錐型をしているということは一目でわかる。
「うわあ、これがピラミッド!?」
それは先客の少年の声だった。星ヶ丘に住む少年、
二宮 風太である。
――天宵川沿いの雑木林の中にある緑の丘は人工のピラミッドである!
今週の寝子タブには、写真や略地図とともに、そんな見出しが躍っていたのだ。
いろいろ信じすぎる少年はこの記事のことも信じきっており、ひと目見ようと単身やって来たのだった。
そして先客はもう一人。腰の曲がった白髪の老婆、
竹松 梅だ。
「
『海賊女王のピラミッド』ゆうたかね。嘘か噂かと思っとったが、ほんまにあったんやねー」
海賊女王、という言葉に、梨香はぴくりと耳をそばだてる。
円が小声で耳打ちした。
「このへんで海賊って云えば
鈴島海賊でしょ? だからセンパイ、興味あるんじゃないかと思ったんだ」
異変が起こったのはそのすぐあとだった。
ぺたぺたと斜面に手をついて感触を確かめていた風太の姿が、みんなが目を放した一瞬の隙に忽然と消えてしまったのだ。しばらくあたりを探し回ったが一向に見つからない。
梅はある古い出来事を思い出していた。
「大昔にもこのあたりで男の子が神隠しに遭ったんや。可哀想にしばらくして、骨と皮ばっかりになって見つかったそうでなあ。うわごとみたいに『海賊の女王様を見た』っていっとったらしいわ」
円も神妙な顔で肯く。
「それ、寝子タブにも載ってた。記事によると、神隠しに遭った男の子は古い外国の金貨を握りしめていたんだって。それでみんなでお宝探しだ、ってことになってあたりを探し回ったけど何も見つからなくって……結局、
男の子はピラミッドの中にいたんじゃないか、
ピラミッドは海賊のお宝の隠し場所だったんじゃないか、って噂になったみたい。もっとも見た通り、入り口らしきものはないし、真相はいまだに闇の中らしいけど」
「なんやけったいやな。ともかく、あたい、ちょいと人呼んでくるわ! あんたらはここで待っときや、戻ってくるかもしれんしなー」
年配の梅があっという間に茂みの中に消える。
円も携帯を取り出し、誰か助けになりそうな人はいないかと手当たり次第に番号を押す。
「あ、もしもし? ボクだよ、桜庭。あのね……」
電話が繋がったそのときだった。視界の端で、梨香が何かを確かめるようにピラミッドに手を伸ばしているのが見えた。かと思うと……その姿が、ピラミッドに吸い込まれるかのように……消えた!
「うそ……」
どうしたらいい? 円は必死に頭を働かせる。冷静にならなくちゃ。
梅が助けを呼びに行った。ことを知れば、友人たちもじきに駆けつけてくれるはず。
いま自分がここを離れちゃだめだ。梨香を追いかけるのは皆が来てからだ。
円は早口で事情を説明すると、じりじりする気持ちで天を仰いだ。
「お願い、みんな、早く来て……!」
こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
わたくしのシナリオの端っこで時折ちょこまかしておりましたシーノという組織。
彼らは、今でこそ黒ずくめの男たちを従えてお宝とあらば頂きに参上するような裏稼業を営んでおりますが、
元はといえば鈴島近海を根城とする「鈴島海賊」の流れを汲む歴史ある組織であります。
このシーノには<宝の島>の伝説が伝わっておりまして、
そこには、鈴島海賊が集めに集めた金銀財宝が眠っているとかいないとか……。
この<宝の島>纏わるお話を、この度<鈴島海賊の秘宝>と題してシリーズ化することと相成りました。
今回は『海賊女王のピラミッド』を探検するお話で、次の第2話と前後編の予定です。
シナリオジャンルは「冒険」! みなさまと一緒に胸躍るような冒険ができますよう!
<目的>
海賊女王のピラミッドの探索、および、消えた風太、梨香の捜索
<PCさんの導入>
梅さんの話を聞いた、円さんから連絡を受けた、寝子タブを見てたまたま訪れた……等ご自由にどうぞ!
※以下はプレイヤー情報となります。PCはこれらの情報を事前に知ることはできません。
海賊女王のピラミッドについて
ピラミッドは九夜山裾の雑木林の中にある(D-8)。
ピラミッドのある一辺に触れると、ピラミッド内部に吸い込まれる。
不思議なことに、ピラミッドの内部は外から見たよりずっと広いようだ。
入った場所から外に出ることはできない。
携帯電話は通じない。
入ってすぐ、声が聞こえる。
そなたらが盗人でなくば、知恵と力と勇気を示せ」
言葉が終わると同時に、一行の前に【赤】と【青】の2つの道が現れる。
※【赤】【青】いずれの道に進むかをアクションにお書きください。
※赤の道に進んだ人が青の情報を、青の道に進んだ人が赤の情報を得るためには
情報交換のアクションが必要。
※持ち物は、報せを聞いて駆けつけるまでに用意出来るもので。
◇ピラミッド内部の略図
◇ピラミッド内部の様子
ピラミッド中央にはごく淡く発光する巨大な四角柱がそびえている。
柱の周りを、赤と青の道(幅3m程)が、交わらぬ四角螺旋を描きながら、上へと向かっている。
扉は基本的に片側からしか開かず、どちらの道も最初の扉を抜けると後戻りはできない。
道は、柱とピラミッド自体の壁に挟まれており、もう一方の道は見えない。
ただし、途中に何か所か伝声管があり、それを通じて連絡を取りあうことはできる。
第一の試練
【赤……天秤皿と石の絵】
(A)この一部だけ床が青い
(!)人が乗れるほど巨大な空の天秤皿がある。
この天秤は、壁から半分だけ天秤棒が突き出していて、壁にはもう半分の絵が描かれている。
絵の天秤の向こう側には四角い石が乗せられている。
天秤皿は、皿にものを乗せ、傍にある石のボタンを押すと計測する仕組み。
計測は何回でも可能。
万が一、絵の石とつりあわなかった場合、(!)の天秤がひっくり返り、そこに巨大岩石が落ちてくる。
道は坂なので、岩石は角にぶつかるまで転がり続ける。
(扉1)開かない。天秤の絵が描かれている。この扉は片側からしか開かない。
※伝声管で青の道(B地点近く)と連絡可能
【青……落とし穴】
(扉~Bまで)海賊の亡霊が追ってくる道。
亡霊には実体がないが、彼らが腕を振うと鎌鼬のような衝撃波が放たれる。
この亡霊に物理攻撃は効かないが、炎と光には弱いようだ。
(B)落とし穴
穴の底は砂で満ちており、穴の中に潜んでいた砂の怪物が行く手を阻む。
自在に形を変える砂の怪物は戦っても手応えがなく、何度でも復活してくる。
(!)壁にはびっしりと「〇一二三四五六七八九イロハニホヘ」の字が繰り返し書きこまれている。
壁に一枚、天秤の絵が描かれた銅版が掛かっている。
絵の天秤の天秤皿の一方に、「一イ六」 という文字が乗っている。
ヒント:単位はキログラムでよい。服の重さはひとり1kgで計算する。
※伝声管で赤の道(A地点近く)と連絡可能
第一の試練の先はしばらくしかけや敵もなく、小休止が可能。
第二の試練
【赤……砂と歌の間】
(!)通路の壁面に、格子状の網がかかっている。
網目はひとつ50センチほどと大きい。網は取り外すことができそうだ。
(C)天井から1メートルほどの空間を残して、砂で満たされた部屋である。
部屋の中は寒く、凍えるほどで、その上どこからか不思議な女の歌声が聞こえる。
この歌を聞くと男たちは魅了され、パラダイスを夢見ながら眠りに落ちてしまう。
そして、一度眠ってしまうと、部屋の寒さで死に至り、二度と目覚めることはないのだ。
部屋の中の砂を掻き分ければ、そんな男たちの頭蓋骨が見つかるはずだ。
この歌は女には効果がない。
(!)Cの部屋の壁には次のような絵が描かれている。
Cの部屋の出口の扉は閉まっており、ぽつんと輝く星の絵が描かれている。
扉はいずれも片側からしか開かない。
※伝声管で青の道(D地点近く)と連絡可能
【青……星の壁】
(D)たくさんの人が手を広げている影が、壁に映りこんでいる。
(!)たくさんの星が描かれている。
よく見ると、壁の星の模様は、それぞれ押し込めるボタンになっているようだ。
※格子と数字は便宜上描いたもの 1つのマスの一辺は50センチ
星のボタンは重く、ひとつ押し込むのにも少女一人分くらいの力がいる。
屈強な者なら片手でひとつずつ押せるかもしれない。
ただし、間違った星を押すと、ギリギリ、と音がして、
幅3m程の通路を挟んで反対側の壁から矢が飛び出す仕掛け。
人間の腕をめいっぱい広げたときの長さは身長とほぼ同じであると考える。
(扉2)開かない。輝く星の絵が描かれている。この扉は矢印の方向に一方通行。
※伝声管で赤の道(C地点近く)と連絡可能
赤の道、青の道ともに、最奥まで進むことができれば、風太と梨香の居場所が掴めるはず!
もしかしたらお宝も、あるのだろうか!?
鈴島海賊
――かつて、木天蓼湾近海を支配していた海の一族は、畏怖を込めてそう呼ばれた。
彼らは鈴の印の帆を掲げ、水上輸送する品々を強奪したため恐れられていたが、
潮の目を読むのに長け、金品と引き換えに安全通行を保証してくれる存在でもあった。
『関東海賊今昔』第3章 海あるところに海賊あり より抜粋(寝子島書房刊)
登場NPC
二宮 風太、坂内 梨香(二人とも現在行方知れず)
坂内 梨香は、鈴島海賊の血を引く娘であり、伝説の<宝の島>を探している。
過去のシナリオに参加していたり、読んでいたりしなくても問題ありません。
――みなさまのご参加、お待ちしております!