【ゾンビが出てきてこんばんは】
ざわざわとした雰囲気が漂う、いやな夜だった。
台風の予報も出ていなかったのに、妙な風が吹いているのか窓の外の木々が揺れている。
これで雨でも降っていようものなら、完全にホラーゲームのオープニングさながらだと、
追分 義一は溜息を吐いた。
明かりを消した室内。同室の
志波 拓郎はすやすやとよく眠っている。普段から睡魔に誘われやすい彼の性質は、深夜、追分がテレビ番組を視聴するにはうってつけの物だった。
深夜1時30分。本日の視聴分はこれで終幕を迎える。
ぶっちゃけ一日中アニメを放送すればいいのにといつも思う。
そんな残念なことを考えたとき、窓の外から妙な呻き声が聞こえることに気が付いた。
「……なんだ?」
ひょっこりと窓の外を見下ろす。
点在する街灯の下に、追分は信じられないものを目にして慌てて頭を引っ込めた。
明かりの下でさえ淀んでおぞましい顔色を晒し、ところどころ血に汚れた体とボロボロになった衣服を纏う、体を引き摺って歩く異様な影。
呻き声は、明らかにゾンビと思しきそれから発せられていた。
「……おいおい、なんだよありゃ。うちの学校にもゾンビみたいな女子や先輩がいるけどよ、あんなにウジャウジャいていいもんじゃねぇだろ……」
そう、その数は一体や二体ではなかった。
ずるずると体を引き摺るように動く影は、道路のそこかしこに見える。と言うよりも、偶然にも桜花寮の周辺に集まったところを目撃してしまったようだ。
ゾンビはそれぞれ、バラバラの方向を目指してさまよっている。
まさか本物とも思えないが、映画撮影などのように近くに撮影スタッフは見当たらない。
しかも彼にはこの現象に、一つ思い当たる節があった。
以前、同じオタク仲間である中野 絹道の下宿に泊まりに行ったことがある。
その日はゾンビシューティングゲームを楽しんだ後に深夜アニメを見て眠ったのだが、その夜、眠っている枕元に間違いなくゾンビが徘徊しているのを目にしていた。
なぜか部屋の外に出ようとはせず、狭い室内をぐるぐる回るだけに留まっていたが、思わず冷や汗が出たことを覚えている。
声を上げれば注意を引くことになると思い、息を殺して眠れない一夜を過ごしたのはおぞましい思い出だった。
ベッドで熟睡しきっていた中野が目を覚ます直前、ゾンビがボロボロと崩れ消えていったのを覚えている。
さっきまで見ていたものが突如消えた現実感のなさに呆然としていると、彼は床に落ちていたものを見つけて寝ぼけ眼でこう言ってのけたのだ。
「……あれ、またこれだ。ネズミかなんかが運んでくるのかなぁ。夢にゾンビが出てくると、絶対これが落ちてるんだよ」
気味悪そうにつまみ上げられたものは、消え残っていたらしいゾンビの腐敗した肉片だった。
ガリガリと頭を掻き、もう一度ちらりと窓の外を見る。相変わらず外は呻き声を発するゾンビたちが闊歩していた。
「コレ、中野のろっこんだろうな……多分」
深夜とは言え、もしこれが多くの一般人の目に触れると少々厄介な事態になりそうだった。
「……仕方ねぇ。巻き込まれ体質主人公とでもしゃれこむか」
そろりと寮を抜け出し、近くで見るとより迫力のある光景に引き攣った口笛を吹く。
「ッヒューゥ。雰囲気出してんじゃねぇか……って!?」
しかしその背後、距離およそ二メートル。いやな気配に振り向くと眼前にはおぞましいゾンビが口を開けて迫っていた。
「ちょ、おいおい勘弁しろよ……!!」
以前のように寝たふりをしようとしても、見つかっているのだからもう遅い。
顔から血の気が引く音を聞き、咄嗟に手元に落ちていた小石を投げつける。
到底威力はなさそうではあったが、これでも反撃しないよりはマシだろうと力いっぱいに。
「ウガァアアアアアア……!!」
ゾンビは叫び声を上げて倒れる。
しかもそれは次第に血色のいい、ただの人へと変わっていった。
ゾンビから戻ったその人は、すやすやと安らかな寝息を立てていた。
「…………あ? なんだ、どういうことだ?」
試しに何体かに小石を投げつける。
頭に命中させなければゾンビは消えない。
そして、人が変化したゾンビと、煙のように消えるゾンビがいることが判明した。
また、やはりゾンビ達は眠っている人間には興味を示さない様子だった。
となれば、活路は見えてくる。
「ねこったーに情報流しときゃあ、この時間でも反応する奴ぁいるだろう。【協力求む】……っと」
メッセージの送信を確認し、携帯の画面を閉じる。
夢を現実にするなら、ゾンビじゃなく美少女にしてくれとうなだれた。
次第、シーサイドタウンと旧市街地は騒ぎを増していく。
しかしその中にあってもなお、志波は枕を抱き込んで布団に埋もれていた。
「んー……今日は部活で疲れたから……もう寝るってば……」
心地よさげにむにゃむにゃと寝言を呟く。
夢の中でさらに眠りに落ちようとは、騒動の一端を目撃した追分に知れればその平和さに生暖かい笑みを向けられること請け合いだった。
お久し振りです、20人シナリオに挑戦します、井之上です。
今回はゾンビシューティングな状況をみなさんに打破して頂こうと思います。
中野くんのろっこんは「夢で見ているゾンビを具現化する」というものです。
本来ならろっこんの影響範囲は六畳間程度の狭い範囲のようですが、暴走したのか、広範囲に及んでいるようです。
ゾンビの徘徊している範囲は旧市街地全域とシーサイドタウンの東側です。
ゾンビ達は閉ざされた扉を突き破って建物に侵入することなどは出来ません。
そして、ゾンビに有効な手段は唯一「頭に当てる」ことです。
大きく分けますと、アクションの方向性は二つになります。
1、寝子島駅近くの下宿で眠っている中野絹道のところへ行き、叩き起こして町中のゾンビ全員を消す
2、徘徊しているゾンビ達をとにかく消していく
もちろん深夜なので、人はあまり歩いていません。
小石以外に、家にあるパチンコ、露店などで使われるコルク銃、強力水鉄砲などは利用できます。
要は人に当たっても「あいてっ」で済む程度の射撃で充分ゾンビは消滅します。
また、注意事項として。
ゾンビに噛まれるとゾンビ状態になります。
噛まれた直後から顔色が浅黒くなり、お腹が減って近くにいる誰かに襲い掛かります。
ただこちらも、小石などで撃たれれば叫びながら倒れ、眠ったまま人に戻ります。
もれいびなら、人に戻った後も起きた状態でいるようです。
中野 絹道が叩き起こされるか、朝の起床時間になって目が覚めると全員元に戻れますのでご心配なく。
以上となります!
さぁ、レッツ・ゾンビ狩り!