「……秋じゃのう、エジソン……」
「……そうじゃのう、コペルニクス……」
九夜山の中腹あたりに佇む、ぼろぼろのほったて小屋の前。いささか薄汚れた白衣を羽織った二人のお爺さんが、腕組みしつつあたりを眺め、ほう、と嘆息しておりました。
「今年もまた、この九夜山が色づいてゆく様を、ここから見られる。ありがたいことじゃのう」
「そうじゃのう。ま、誰か途中でぽっくり逝っちまって、最後までは見られんかも知れんがな」
「お前、毎年それ言うの、縁起悪いからやめてくれんか?」
寝子島の四季を、この場所からイヤというほど見つめてきた彼らですが。どうやら飽きてしまうということも無いようで、日々赤や黄色に染まっていく山を眺めながら悦に浸るのは、実に毎年のことです。
ただ、今年は少々、違っていることもありまして。
「はぁぁぁ……」
「……うっとおしいのう」
「おい、しゃっきりせんか、アインシュタイン」
小屋の屋根の上で膝を抱え、ちょっぴりうつろな目をした、アインシュタインと呼ばれたお爺さん。彼は何やら沈み込んでいる様子で、たくわえた口ひげも、どこかしぼんでいるように見えます。
「ふぅぅぅ……」
「ダメじゃこりゃ」
「ま、秋は恋の季節……とも言うからのう」
コペルニクスさんとエジソンさんもまた、思わずつられて、ふぅぅぅ。ため息をつきました。
そう、このアインシュタインさん。
齢ウン十歳の今にして、恋をしているというのです!
「なんちゅうたかの、こやつが懸想しとるばあさんは」
「ハナちゃんじゃ。星が丘に住んどる、超・せれぶじゃぞ。ワシらみたいな小汚いジジイと、釣り合いなんぞ取れんと言うとるのに」
高根 ハナさんは、若い頃に旦那さんを亡くしてから一転、事業を起こしてバリバリと働きつつ、女手一つで三人の子供を育て上げたというアクティブでパワフルな女性。引退した今は、豪奢な邸宅で老後を悠々自適に過ごしている、明るくてチャーミングなおばあちゃん……だそうです。
たまたま偶然、町で彼女を見かけたアインシュタインさんは、いわゆるひとつの、ヒトメボレをしてしまったというのです。
「やれやれ、良い歳したジジイが、色気づきおってからに」
「まったくじゃ。ワシらみたいな小汚いジジイと、釣り合いなんぞ取れんと言うとるのに」
という、外野の言葉はさておき。
聞けばアインシュタインさん、まずは彼女の家へと出向き、ご挨拶と自己紹介を……と思いきや、いかついガードマンたちに阻まれ、怪しい人物として締め出されてしまったそうなのです。
「そりゃあまぁ、白衣を着た怪しいジジイがイキナリ行ったところで、取り次いではくれんじゃろのう」
「だから言ったじゃろ、ワシらみたいな小汚いジジイと、釣り合いなんぞ……」
「……告白じゃッ!」
だん!
唐突に、屋根の上で立ち上がったアインシュタインさん。ぐぐぐ、としわだらけの手を握り込み、何やら気合のおたけびを上げました。
「こうなりゃ、行く手を阻むあの警備員どもを、我らが科学の力で残らず跳ね飛ばし! ハナちゃんの元へとたどりつき、その勢いで……こっ、こっ、告白するんじゃ!」
「……なんぞ言い出しおったぞ、こやつ」
「まったく、ジジイが色気づきおってからに」
「ええい、ジジイジジイと何度も言うな! とにかく!」
屋根の上から、アインシュタインさんはびしりと指を突きつけますと、
「これは、我ら『寝子島少年科学団』のミッションじゃ! お前らにも協力してもらうぞ、異論はあるまいなっ」
言い忘れておりましたが、アインシュタインさんは少年科学団の、いちおうリーダー格ということになっています。
時折こうして、横暴とも思えるリーダーシップを発揮し、仲間たちを振り回したりするのですけれど……二人は嫌な顔ひとつせず、代わりに、にやり。
「まぁ、跳ね飛ばすのはまずいじゃろ。ハナちゃんに会うなら、見つからんようコッソリと、じゃな」
「ワシの発明した、可愛いメカたちの出番じゃな、ふっふっふ」
楽しいこと、わくわくすること。そして、悪だくみは大好きなのでした。
「……しかし、ワシらだけで大丈夫かの?」
「大分ジジイじゃぞワシら、体力無いぞ」
「ええい、ジジイジジイと何度も……ま、誰ぞ暇人にでも、手伝いを頼むとするかの」
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
少年科学団、二度目の登場です。彼らと面識のある方も、お初の方でも問題ありませんので、どなたもお気軽にどうぞ!
『寝子島少年科学団』とは?
少年の折に、『将来は絶対に科学者になる!』と誓い合い、そんな夢を抱いたままフツーに歳を取ってしまった、三人のお爺さんたち。それぞれにアインシュタイン、コペルニクス、エジソンなどと愛称で呼び合うのは、その夢の名残です。
九夜山の中腹にあるほったて小屋を秘密基地と称し、日夜怪しげな実験や発明などを行っています。
最近は、小屋の周辺一帯に影響を及ぼした神魂のおかげで、彼らが適当な理論で作った大雑把かつ奇妙なメカが、いかにもそれっぽい効果を発揮するようになってしまったようです。
そんなこととは露知らない科学団は、この歳にして科学者としての才能が開花した! と喜んでいるようです。
このシナリオの概要
今回は、悪知恵に頭は回れどいまひとつ体力には自信が無い、少年科学団からの協力要請に皆さんが応じ、アインシュタインさんの告白をアシストしていただく、といったシナリオになります。
待ち受ける障害を乗り越えるためには、彼らが発明した怪しいメカを使用することになる……のですが、何せ科学団の面々は『(自称)科学者』でありまして。その効力は、実際のところ神魂頼り。どうにも不安定で、様々なアクシデントが発生することでしょう。
皆さんは、科学団や彼らのメカが引き起こすハプニングに対応しつつ、見事に障害をクリアし、告白を成功に導いてあげてください。
その際、いかにも彼らのメカが役立って難関を乗り切ったように見せかけ、神魂やもれいびのことなど知らないお爺さんたちのプライドが傷つかないよう、こっそり配慮してあげることができれば、なお良いでしょう。
アクションに書いていただきたいこと
お爺さんたちは、協力者を募るために様々な手段で情報を発信しています。
ご参加いただくきっかけは、直接声をかけられたとか、張り紙や新聞の広告欄、ねこったーを見た、などなど何でも構いません。たまたま通りがかって巻き込まれた、とかでも。
おばあさんが住んでいるのは、広い敷地に絢爛豪華な洋館風の、三階建ての邸宅です。
幾人かのお手伝いさんが敷地や邸内の手入れをしているほか、一人暮らしのおばあさんを心配した子供や孫たちが気を利かせた結果、セキュリティ態勢には特に力が入っていて、多数配置されたガードマンにより、彼女に面識の無い人物、また怪しい人物は一切の立ち入りを許されません。
目的を達成するためには、以下の三つの関門を乗り越える必要があり、それぞれの場所で、科学団の面々が一人ずつ指揮を担当することになっています……が、概ねいい加減な彼らですので、科学団自身は基本的にあまり当てにはなりません。
ご参加の際は上記を踏まえつつ、主にどのパートに協力するかを一つお選びください。
【1】STAGE1:池
○使用するメカ:『電磁冷却砲改』
○担当者 :コペルニクスさん
正面から入り込むのは難しいため、まずは敷地の側にあるちょっとした池を凍結させて渡り、裏からコッソリと塀を乗り越えて侵入します。
『電磁冷却砲』は、以前科学団が登場した際にトラブルを巻き起こしたことがあるメカで、物質の発する電磁波を増幅することで、熱を強制放出させ冷却するというもの。今回はその改良版です。
【2】STAGE2:庭園
○使用するメカ:『エーテル波動式偏光迷彩』
○担当者 :エジソンさん
邸宅の周囲、広大な敷地内は緑と花に彩られた美しい庭園になっていますが、そこには多くのガードマンが巡回し、不届きな侵入者に目を光らせています。
『エーテル波動式偏光迷彩』はいわゆる光学迷彩装置で、あらゆる空間を満たしているという光の媒質である気体エーテルの波に干渉して光を屈曲させ、半径数メートルの範囲の人や物を透明にすることができます。
【3】STAGE3:窓の下
○使用するメカ:『反重力制御装置』
○担当者 :アインシュタインさん
首尾よく邸宅へ近づくことができたら、三階にあるおばあさんの部屋の窓の下から、直接お邪魔します。
『反重力制御装置』はそのものズバリの宙に浮かぶためのメカで、重力波により一定範囲内の地面に弱い斥力を発生させて無重力空間を作り出し、空中を浮遊することができます。
アクションには、
・主にどのパートに参加する?
・参加に際しての心情
(機械いじりが得意、お爺ちゃん好き、困っている人を助けたい、知り合いに誘われて仕方なく、など)
・どんな方法で協力する?
(メカを動かす、ろっこんで似たような機能を演出する、おじいさんたちの気をそらす、など)
といったあたりをお書きください。
その他
●参加条件
特にありません。どなたでもご参加いただけます。
●舞台
星が丘にある、おばあさんの住む邸宅とその周辺が舞台になります。
ちなみにおばあさんは寝るのが早いので、作戦決行は昼間になります。
●NPC
○寝子島少年科学団
偏屈なアインシュタインさん、女好きなコペルニクスさん、シニカルなエジソンさんのお爺さん三人組。
『寝子島ふぁんた爺ズ』を密かにライバル視しているとかいないとか。
○高根 ハナ
アインシュタインさんが恋する、セレブなおばあさんです。若い頃はバリバリのビジネスウーマンでした。
夫に先立たれてから長く、子供たちもみな一人立ちして、今は一人暮らしをしています。
●備考や注意点など
※上記に明記されていないNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用できかねますので、申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
以上になります~。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております~!