王国は今、滅亡に瀕していた。
「もう、敵はこの神殿を取り囲んでいます。突入してくるのは時間の問題でしょう――」
ネコシマ王国の最奥、海辺の崖の上に建てられた小さな神殿の祭壇に立ち、痛ましげにそう語るのは、王国の至宝たる双子姫のうちの1人、アオイ姫だ。傍らには妹のノノコ姫が居て、2人しっかりと手を握り合っている。
アオイ姫の言葉に、神殿に集まった者たちから苦渋の呻きが漏れた。アオイ姫の言葉はすなわち、この神殿以外の場所はもはや敵に制圧され、恐らくは同胞たちもみな殺されてしまったに違いないことを意味している。
だからこそ、人々は苦渋の呻きを漏らし、双子姫は痛ましげな表情を隠そうともしない。もはや、この国は滅びるより他はないのだと誰もが感じ取っていた。
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はるか東の海に浮かぶ小さな島、『ネコシマ』――そこは、遥かな昔に神の国から降臨したという王に守られて、慎ましやかに暮らす民達の国だった。
大人の足で歩けば1日で1周出来るほど小さな島は、けれども王の血筋に約束された神の恩恵あってか、肥沃で豊かだ。先の王が亡くなり双子姫が暫定的に王位に就いた今は、ますます国土は豊かになり、海の幸も山の幸も豊富にもたらされ、人々は飢えることを知らない。
それを――他国が面白からぬ目で見ている事に、気付いていたものはわずかで。けれども、まさか本当に攻めてくる国があるなんて、誰も思っていなかったのは、ネコシマ王国には神の恩恵がもたらした、もう1つの『奇跡』があったから。
なぜだかネコシマ王国の民は、誰もが不思議な能力を1つだけ持って生まれる。それは役に立たないものも多かったが、過去の歴史を紐解けばただ1人で大軍を相手に猛威を振るえるような、強大な能力を持つ戦士もいた。
だから。その不可思議の能力を恐れられて、長い間ネコシマ王国は小さな国土でありながら、平穏を保っていられた。ゆえに民は長い間、自国が侵略されることなど夢にも思わないで生きていられた。
けれども――今、その『信仰』は儚くも裏切られ、彼らは滅亡に瀕している。ネコシマ王国以外ではここ数年の間、干ばつによる飢饉が続いていて、その飢えに耐えかねた周辺諸国が協力し合って兵をなし、王国の豊かな大地を手に入れようと大挙してきたのだ。
本来ならば土地を耕す民まで殺すのは、将来を考えれば得策ではない。だが不思議な能力を持つネコシマの民を生かしておいては、いつ恐ろしい逆襲をされるか解らぬから、連合軍はすべての民を生かしておくなと命じたという。
ゆえに今、この神殿に残されているのは文字通り、ネコシマ王国の最後の生き残りだった。そして――この圧倒的な戦力差ではもはや、彼らに未来はない。
「姫様方――」
神官長がノノコ姫とアオイ姫を、神殿の奥へと促した。神殿の奥には、神々の国へと通じる道があるという。
頷いた双子姫が、泣きそうな表情をこらえて扉の奥へと消えていく。神の国へと、還っていく。
双子姫と神官長だけを飲み込んだ扉が閉まり、その前に王国騎士団長が立ちはだかった。すでに部下もほとんどを失い、自らも満身創痍の彼は、双子姫を守るためだけに生き恥をさらして、ここに居る。
「いずれ姫君がたが戻られれば、ネコシマ王国は何度でも蘇ろう……だがッ! 彼奴らはッ! その姫君がたを捕らえてネコシマともども我が物にせんとしておるッ!!」
くわッ、と目を見開いた騎士団長の言葉は、小さな神殿の隅々にまで響き渡った。
「皆、武器を取れぃッ! 姫君がたが無事に神の国に戻られるまで、何としてもこの扉を守るのだッ! ――誇り高きネコシマの民の名においてッ!!」
ダンッッッ!!!
甲冑を纏った足で荒々しく、騎士団長が神殿の床を踏み鳴らす。それと同時に神殿の入り口が大きな音を立て、武装の兵達が一気に神殿に雪崩れ込んできたのだった。
いつもお世話になっております、水無月 深凪と申します。
たぶん今回は、そこまでお久しぶりじゃないと信じたい今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか(そっと目を逸らし
さて、今回はいつもとは違って、ファンタジーなお話です。
滅亡せんとするネコシマ王国の民となり、敵との最後の戦いに挑む――という夢を見た感じです。
夢です、大事なことなので2回。
ご興味をお持ちいただけましたら、以下の注意書きをどうぞ。
<まずは参加上のご注意>
舞台はネコシマ最後の生き残りたちが逃げ込んだ、神殿に敵が突入してきたところから始まります。
この戦いに、生き残るという選択肢はありません。
敵はネコシマの民を恐れていますから、最後には必ず殺されてしまいます。
伝説では数多の敵を吹っ飛ばすような能力を持った戦士もいたネコシマの民ですが、今はそんな能力者はおらず、戦力もご参加の皆様+α程度。
とてもではありませんが、多勢に無勢です。
ですからこのシナリオで重要なのは『いかにかっこ良く戦って死ぬか』。
皆様のかっこいい死に様を、心からお待ちしております。
<次はアクション作成上のご注意>
まずは皆様のお立場を、以下の3つからお選びください。
なお、参加立場が解りやすいように、アクションの冒頭に()の中の略称をご記載くださいませ。
・一般人(【一】)……引退した元騎士、などもこのカテゴリに含まれます。基本的に武装していません。
・騎士団員(【騎】)……騎士団は小さいので、NPCの団長以外は全員役職なし(?)となっています。基本的に武装しています。
・神殿関係者(【神】)……神殿も小さいので、NPCの神官長以外は全員以下略。基本的に武装していません。
次に、このシナリオの中だけで行使する特殊能力を簡単にご設定ください。
もれいびの方は、ろっこんをそのまま使用して頂いても、別の能力を設定して頂いてもかまいません。
もれいびではない方も、このシナリオの中だけは特殊能力を1つだけ決める事が出来ます。
あまりに強力そうな能力は、マスター裁量でほどほどにする場合がありますので、悪しからずご了承くださいませ。
次に、いかに戦ってかっこよく死ぬか、を感情の赴くままにお書きください。
王国を守り切れなかった無念を抱いて死ぬのか、戦いに戦い抜いて敵の凶刃に倒れるのか、戦いを目の当たりにして悲観に駆られて自刃するのか、すべてはあなたのご希望のままです。
ちなみに、心情アクションは水無月の大好物です(待って
なお、能力以外で戦う場合は、武器は剣・弓・槍のどれかからお選びいただけます。
武装は上半身を覆う簡素な鎧と、具足だけです。
詳細はご自由にご設定ください。
敵兵も同じような武装で襲ってきます。
銃や大砲などの飛び道具は存在していません。
<最後にシナリオの話をちょっとだけ>
●双子姫のお話
神の国に還ると扉の向こうに消えたアオイ姫とノノコ姫ですが、神殿の扉の奥には崖へと続く階段があり、双子姫はそこから身投げして(或いは突き落とされて)命を絶たれることになっています。
この事は、神殿関係者(【神】)の方は知っていますが、その他の立場の方は知りません。
もちろん騎士団長も知りません。
なお、小さな国なので、双子姫と親しく話したことのある人は多いと思われます。
つまり、特別な関係でなければ双子姫がらみのアクションを書いて頂いて大丈夫です。
それではお気が向かれましたらどうぞお気軽に、どうぞよろしくお願いいたします。