「あー。あっちぃ……だりぃ……」
高い気温と日本特有の湿気に溶けてしまいそうになりながら、
吾妻 優は近場の木陰に避難した。
「お、ここは結構涼しいな」
少し山っぽい場所に入っただけで、随分体感温度が違う。
ミーンミンミン……
時折涼やかな風が吹き、何処かで蝉の声が聞こえる。
「ここで昼寝したら気持ちよさそうだ……」
鼻をくすぐる草の匂いが妙に落ち着き、優が手近な場所に腰掛けようとした時。
ギャーギャギャギャギャギャギャギャギャ!
「うわっ、なんだ!?」
突然、耳をつんざくような怪音が響き渡った。
ギャギャギャギャギャギャギャギャー!
「う、うるせぇ……! こりゃ昼寝どころじゃねぇよ」
優はひとまずヘッドフォンで耳を塞いで、林から引き返す。
「なんだなんだ?」
と、そこへ通りの方から、妙な音を聞きつけた近くの
茄音寺(なおんじ)の住職さんが駆けつけた。
「おや、君は寝子高の生徒さんかい? 一体何が……」
「いや……俺もなんだか分からなくて」
二人が困惑していると、いつの間にか足許にほんのり霧が立ち込め出して。
「あの、そちらのお二方」
声の方に目を向けると、林の向こうの霧の中に、綺麗な黒髪の着物姿の女性が立っていた。
「もしよろしければ、お力をお貸し頂けませんか? あ……でも、お二人だけでは難しいかも知れません」
「あの音の事、何か知ってるのか?」
女性の神妙な様子に優が尋ねると、彼女は頷いた。
「申し遅れました、私はこの山に住んでいる、キヌと申します。それで、あの音についてなのですが……」
「なんだこりゃ……」
キヌの案内で林の奥に向かった優と住職さんは、地べたに這いつくばったとんでもない大きさの蝉にただただ唖然とした。
「彼は折角長い地中での暮らしから外に出てきたというのに、神魂の影響で突然巨大化してしまったのです」
キヌは労しげに、袖で口許を覆う。
ギ……ギギ……
彼らが近くにいるからか、蝉は鳴くのを我慢しているようだ。
よく見れば、周囲には小鳥や虫などが気絶している姿が見えた。
「こんな大きさでは、短い恋の相手を見付ける事も出来ません。けれど、蝉の習性で鳴かずにはいられないそうなんです」
「わ、私どもはどうしたら?」
戸惑いながら住職さんが尋ねると、キヌは蝉と視線を交わすようにしばらく間を置いた。
「大きくなってしまったせいか、彼は自力で飛ぶ事が出来ないそうです。あと一週間……何処か、誰にも迷惑を掛けない場所で、思いっきり鳴いて過ごしたい……そう願っています」
「つってもな……どうすんだよ、こんなの」
「私は山の中、霧の届く範囲からは出られないのです。どうか、お力を貸して頂けないでしょうか?」
「はぁ……めんどくせぇ事になったな……」
懸命に頭を下げるキヌに、優は大きな溜息を吐いた。
こんにちは、羽月ゆきなです。
今回は「神魂で巨大化してしまった蝉をなんとかしてくれー!」というシナリオになります。
リアクションは、コメディ時々ちょっぴり切ない雰囲気になると思います。
参加者の方は、ご登場頂いた吾妻 優さんかお寺の住職さんに話を聞いたとする他、たまたま近くで騒ぎを聞きつけたり噂を聞いた、キヌのところに遊びに行って彼女に頼み事をされたなどの状況からアクションを書く事が出来ます。
どうぞよろしくお願いします。
◆巨大化した蝉について
全長3mほどで、重さもそれなりにあるせいか自力で飛べません。
巨大蝉の鳴き声は、近くの生き物を気絶させてしまうくらいすさまじい為、もう誰もいない場所に運ぶか海に流すかくらいしか方法がなさそうです。
(リアクション中で蝉の近くにいる時は、都度気絶チェックが入ります)
ですが、そこは皆さんのお知恵を拝借して、何か良い案や蝉を楽しく送り出せるアイデアなどを出し合って頂ければと思います。
※別の世界に連れて行くというのは、ナシでお願いします。
巨大化蝉は現在、桜台のお寺(茄音寺/なおんじ)と桜台墓地の間(地図のG-7)辺りの、林の奥にいます。
◆NPCについて
『九夜山のおキヌさん』についてはシナリオ『霧の中に佇む花』などをご覧下さい。
※キヌとはこれまでのシナリオで会った事がなくても、九夜山を自力で登れ、かつ悪さしようという心を持っていないキャラクターさんであれば、面識がある(知人~友人くらいの関係)としてOKです。
他にお寺の住職さんが登場しますが、ひとなので何が何だか分かっていない状態です(それでも巨大蝉の情報を聞く事は可能です)
訳が分からないなりに、頼めば出来る範囲の事は手伝ってくれるかも知れません。
また、桜花寮・猫鳴館に住んでいる学生NPC(ののこを除く)と、桜台付近で風景写真を撮っている神木 直樹も必要に応じて登場する可能性がありますが、その他の登録されているNPCは基本的に登場しません。
(巨大蝉の声は、初期位置からでは各寮までは届きません)