そのお店『somnium(ソムニウム)』は、シーサイドタウン駅から少し離れた、ちょっと裏路地のような、けれどもどこか洒落た雰囲気を持つ通りの一角にある。
取り扱っているのは色んな雑貨や、アクセサリー。それから店主夫婦が毎日心を込めて焼いている、焼き菓子やケーキの類。
雑貨類は店主夫婦が気に入ったものだけを取り寄せたり、時には手作りをして売っているとかで、素朴だけれども優しい雰囲気のものが多い。それはともすれば、売り物ではなくそれ自体が店を彩る装飾にも感じられる。
夏もすっかり本番を迎えた今は、『somnium』に並ぶ雑貨も、夏を感じさせる物が増えてきた。涼やかで繊細なガラス細工に、夏の海をモチーフにしたタペストリーやグラススタンド、小さな小さな麦藁帽を飾りにしたアクセサリー類――
それに合わせるように、ショーケースの中に並ぶお菓子もゼリーを使った物や、冷たいムースの類が多く見られる。とはいえ今日は平日だから、店内には数えるほどしか客は居ない。
その、貴重な来客の1人である青年、皆川 一和(みながわ・いちかず)がイートインから出て来たのを見て、店主である木原 高明(きはら・たかあき)はレジの前へと移動した。そんな高明に会計伝票を渡し、一和は「ごちそうさまでした」と頭を小さく下げる。
それに、高明は穏やかに微笑んだ。
「いつもありがとう。――そういえば一和君は、大学生最後の夏休みだろう。ご両親の所に行くのかな?」
「や、さすがにバイト休めませんし、金がないです」
少しレトロな趣のレジを叩きながら、ふと彼の両親が長らく中国に海外赴任をしていることを思い出して訊ねると、一和は大きく首を振った。そうかい、と小さく相槌を打つ。
だが、そのまま何やら難しい顔になった一和に、おや、と小さく首を傾げた。
「何かあったのかな?」
「――あー……親父達から大量に送られてきたお茶、どうしようかって困ってるの、思い出しちゃって」
尋ねた高明に、一和はどこかうんざりとした口調になる。そうして説明した所に寄れば、皆川家には時折、両親から大量に中国茶が送られてくるのだという。
種類は烏龍茶にジャスミン茶、プーアル茶。一家族だけで消費するには量が多すぎる上に、前のも消費し切らないうちに次が送られてくるものだから、茶葉が積み上がっていく一方で。
両親にはその旨を伝えて、あまり送らないでくれと再三頼んでいるのだが、『まだ若いんだから大丈夫』と受け流されるばかり。そうしてつい先週にも、前述の三種類の茶葉がたっぷり一箱ずつ届いてしまい、頭を抱えているのだという。
そう説明をして一和は、はぁぁぁぁ、と大きなため息を吐いた。
「めぼしい友達には全部配ったんですけどね……」
「ふむ……じゃあ、良ければそのお茶、全部貰えないかな? もちろん代金は支払うよ」
「えッ!? そんな、持て余してるんですからお金を貰うなんて、とんでもない! でも、良いんですか?」
「もちろん。これも何かの巡り合わせだからね、今度の土日限定で中国茶フェアをしたいんだ。たまには甜点心(テンテンシン)、中国のお菓子のことだけれども、それを作ってみたいしね。どうかな、奥さん?」
「とっても素敵な思いつきだわ」
高明の提案に、小さな銀のトレイを抱いてイートインのお客様の様子を見ていた奥さんの木原 伊都子が、ふわりと嬉しそうに微笑んだ。うん、とそれに頷き返して、高明は一和の方へと向き直った。
そんな2人に、一和はぺこんと大きく頭を下げて「ありがとうございます!」と礼を言う。
「じゃあ、茶葉は明日にでも妹に届けさせます。――と、伊都子さんはまだリハビリ中ですよね?」
「そうねぇ、フェアをするのならきっと、たくさんお客様がいらっしゃるわねぇ」
一和の言葉に、伊都子が少し考えるようなそぶりになる。先月、左腕に全治一ヶ月の怪我をしてしまった伊都子は、つい最近ようやく『完治』のお墨付きをもらい、今は無理のない程度の給仕をしながら、左腕のリハビリに励んでいるのだ。
それを知っている一和は、「じゃあ」と提案した。
「オレは土日バイトですけど、後輩に手伝えるか声かけてみます。居なきゃ妹を寄越すんで」
「――そうかい? 助かるよ」
一和の好意を、高明は笑顔で受け取る。手伝ってくれた子には幾ばくかの謝礼と美味しい甜点心でもごちそうしようか、と思いながら。
いつもお世話になっております、水無月 深凪と申します。
気付けばすっかりお久しぶりとなってしまいましたガイドは、とある小さなお店でのこんなお話となりました。
中国茶。
専門店などに行くとびっくりするくらいたくさんの種類があったり、茶器が小さくて可愛らしかったりと、何となく楽しくなってしまいます。
甜点心は杏仁豆腐や桃饅頭、胡麻団子などが有名どころになるのでしょうか。
高明さんは有名どころからマイナーどころまで、各種揃えてお待ちしていますので、お気軽にご注文ください。
『somnium』の中国茶フェアでは、それらの甜点心に加えて烏龍茶、ジャスミン茶、プーアル茶がそれぞれ、アイスとホットでお楽しみ頂けます。
通常メニューの紅茶数種やジュース、各種洋菓子も珍しいものでなければお楽しみ頂けますので、お気軽にお越し頂ければ幸いです。
お席は、店内と店外(テラス席)がお選び頂けます。
もちろん、雑貨コーナーでのお買い物も大歓迎です!
ちなみに、皆川 一和から話を聞いた、何だか手伝い人を探していると人づてに聞いた、などでお店の給仕などを手伝っていただける場合は、土日のどちらにお手伝い頂けるのか、アクションに明記いただけると助かります。
もちろん、両方でも大歓迎です。
服装は、制服などはありませんので接客の出来る服装で、ご自由に。
皆川 一和は島外の大学に通う4年生、就職も無事に決まり最後の学生生活をエンジョイしようと頑張る22歳です。
寝子高普通科の出身で、部活動は帰宅部(!)。
弟妹がたくさん居て、寝子高2年にも妹の三波(みなみ)がやはり普通科3組・帰宅部で所属していたりします。
どちらも当日には居ませんが、2人との関係は無理のない範囲で、クラスメイト(のお兄さん)など、ご自由に設定して頂いて構いません。
(ぁ、三波はお手伝いの方が居なかった場合、給仕をしていますが……)
過去の『somnium』シナリオも知りたい、という方はこちらをご覧ください。
もちろん、ご覧にならなくても問題なくお楽しみ頂けます。
『somnium』へようこそ!
somniumで紙ねんどスイーツを。
『somnium』の店主夫婦は、ご主人が定年を迎えた後に夫婦揃って寝子島に移り住み、趣味を一杯に詰め込んだお店を開いたという、木原 高明(きはら・たかあき)さんと伊都子(いつこ)さん。
揃って68歳を迎える今も、海外や国内各地に旅行に赴いては、あちらこちらで仕入れてきた雑貨なんかをお店に並べていたりします。
髪に混じった白いものも目立つお年頃ですが、どこか可愛らしいような、優しい雰囲気が親しみやすい、とご近所では評判だとか。
皆様との関係は、こちらも無理のない範囲で、常連客など、ご自由に設定して頂いて構いません。
ちなみに水無月は香港に行った時に『ホット烏龍茶はダイエットに良い』と聞いて以来、ホット烏龍茶の熱烈な信者です(何
それではお気が向かれましたら、どなた様もお気軽に、どうぞよろしくお願いいたします(深々と