日が落ち、夜も更け……夜空には星。
旧市街の参道商店街を一組の男女が歩く。制服を着ていることから寝子島高校の生徒であることがわかる。
男は女性の肩を抱き、仲良さそうに寄り添っていた。
ここにもてない男性諸君がいれば、リア充だ、爆発だなんだと騒ぎ立てる事間違いなしであったが、夜の商店街は静まり返っており人の姿はない。
男は女性を抱き寄せ、甘い言葉を囁こうとした……が、動きが止まる。
視線の先には細い路地。そこから白い手がゆらゆらと伸びている。
路地から白い服の女性がゆらりと現れる。腰まではあるかという長い黒髪で顔が隠れ、表情を窺う事は出来ない。
不気味、不気味。そういう言葉がその女には似合った。
動きを止めている男性を怪訝そうな顔で隣の女性が眺める。
白い服の女性が顔を上げる、髪の間から顔が見えた。その瞬間、男性の恐怖心は限界を超える。
瞳がないのだ。顔は蒼白で、目に当たる部分はあるのだがその中に瞳が存在していない。ただ深い闇があるだけ。
白い服の女性がにたりと笑うと男性は悲鳴を上げ、隣の女性を突き飛ばす。
少し離れた場所に彼の背中が見える。彼は彼女を置いて一目散に逃げ出したのである。
置いて行かないで……という女性の声は彼の背中に届かない。
彼女の背後に、先ほどの白い女が近寄った……。
――――どれだけ走っただろうか。息を切らしながら彼は腕時計を見る。既に深夜は過ぎ、日付が変わっていた。
彼の耳に何かが聞こえる。
始めはぼそぼそとして聞き取れなかったが、ソレは次第に声として認識されていく。
「置いて行かないで……待って……」
その声は二重に重なったように聞こえた。片方は先程まで抱き締め、自ら突き飛ばした……彼女の声。もう片方は見知らぬ女性の声。
驚くほどにその声は冷たく感じた。聞いているだけで全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。
彼の足は止まらない。それは本能的な恐怖に突き動かされているからなのか、それとも我が身の可愛さゆえか。
しかしそんな彼の逃走は急に終わりを告げる事となった。逃げた道が行き止まりだったのである。
「くそ、やばい……どうしようどうしよう」
慌てふためく彼の耳に声が届く。その声はまだ遠いが徐々に、そして確実に近づいて来ていた。
「置いて……行かないで……マッテ……マッテ」
二重に重なる声が彼の恐怖心をさらに煽った。
「ひぃぃぃ……来るな、こ、来ないでくれ!!」
恐怖に引きつる彼の視線の先に見慣れた姿の女性が現れる。肩までの髪。学校の制服。紛れもなく先程まで一緒にいた彼の彼女。そう、見捨てた彼女だ。
彼は名前を呼び、安心したいのか近づこうとするがその足は止まった。様子がおかしいのである。
彼女はふらつき、足元がおぼつかない様子でこちらにゆっくりと近づいてくる。
前髪が垂れ、その顔を窺い知ることはできない。
そして、寒いのだ。そこまで気温の低くない日だというのに、真冬……もしくは冷凍庫の中にいるような寒さ。それもその冷気は彼女の方から流れているようにも感じるのである。
彼女はふと立ち止まり、顔をゆっくりと上げた。
その様子を見て、彼は悲鳴を上げそうになる。なぜなら――――先程の白い女性と同じようにその顔には瞳にあたる部分がないのである。
見る影もなく豹変した彼女は口を開け言葉を発した。その声は先程まで聞こえていた二重に重なった声。
「置いて行かないで……待って……マッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待ってマッテ待って」
止まない二重の声が彼を攻め立てるように辺りに響いた。
彼の背後に、真下に、あらゆる所から白い手が伸びていく。ソレらは数を増し彼に絡みついていった。
「あぁ……うぁ、や、やめろ……やめてくれぇッ!! うぁぁぁぁぁぁぁーーーーッッ!!」
ここは寝子島神社の一室。
旧市街地区自治会の会合に、月一回程度使われている場所であるが今日は会合の為に使用したのではない。
事態の解決を名乗り出た者達が事件を事前に調べていた旧市街地区自治会の自治会員から話を聞く為に集まったのである。
自治会員は少し間をおいてから話を始める。
「悲鳴を聞きつけた警備員が駆け付けた時には――――その場に誰もいなかったそうです。代わりにこのような物が落ちていました」
そう言うと自治会員は机の上に腕時計を置いた。
目立った損傷はないが、その針は動きをぴたりと止めている。時刻は夜中の二時を指したままのようだ。
「それからというものの、夜に商店街を歩いていると彷徨う不気味な女を見た、気味の悪い声を聞いた等の話が寄せられていまして。その……信じがたい話だとは思うのですが、幽霊の仕業……商店街が呪われていると、一部でそういう噂が広まっているのです」
その話から想定されるものを想像し、背筋を冷たいものが下りていく。
部屋の気温が少し下がったように感じるのは気のせいだろうか。
「このままではいずれ不気味な噂が寝子島中に広がり、商店街によりつく人がいなくなってしまいます。何が起きているかを突き止めて、この騒ぎを収拾しませんか」
彼の言葉に頷く――――とはいっても恐怖で震えながら引きつった笑顔だった者や少々目線を外していた者もいるにはいたのだが。
それでも誰ひとり断ることなくその場を後にし、それぞれが事態の解決の為に動き始めるのであった。
皆様、初めまして。ウケッキと申します。
まだまだ未熟な所はありますが、どうぞ生暖かい目で見守っていただければ幸いです。
さて、今回のお話ですが幽霊です。怖いです。寒いです。がたぶるです。
出来れば遭遇したくない類の存在ですよね……。
とまあ、そんな話は置いといて。
幽霊は何らかの理由により、その活動が活発になっています。
ここまでで行方不明になった人もいるようです。
▼場所について
時刻は深夜二時。旧市街の参道商店街です。
街灯はありますが、路地裏は真っ暗で光が届かなくなっている所もあります。
商店街の各所に目撃情報がある為に、どこから出現するか
わからない状態です。
▼敵について
幽霊が相手となります。
幽霊は冷気を纏っており、炎属性の攻撃が有効打になるかもしれません。
また、精神攻撃の類を使ってくる為、何の対処もなければ戦闘不能に陥らされる可能性があります。
それでは皆様のアクションをお待ちしております。