主の留守を預かる
メアリ・エヴァンズは、ブラックウッド邸で上機嫌に銀器を磨いていた。
いつも働き通しなことを気遣ってか、自分の留守中くらいは休むように言ってくれた主だけれど、じっとしてなどいられるものか。
(……ようやく、1歩を踏み出されたんですね)
多くは振り返るまい。
ただ、20年以上の年月をかけても動かなかった主の時が、1人の少女によって新たな時を刻み始めた。
今朝の喜ばしいメッセージと電話を思い返すと、布を動かす手つきがいつもより軽やかだ。わかりやすい自分に苦笑してしまうけど、こればかりはどうしようもない。
「どんな1日を、お過ごしになられるのでしょうね」
そう呟く声も弾んでいる。2人が話を聞かせてくれるのが待ちきれないのだろう。銀器に映るメアリの微笑みは、ほんの少し若返って見えた。
(おふたりとも紅茶が好きですし、それに合う菓子を……いえ、先に花の手配を)
帰りを待つ間にできること。2人を迎える準備を考え始めたメアリは、今日も忙しく邸を動き回りそうだ。
先ほどまで居たのが群馬の山々に囲まれたイギリスなら、ここは千葉の海に面した夢の国。
このNIKUKYU NYANDは『夢とハピネスの大陸』と『魔法とアドベンチャーの海』の2大テーマとなっており、いくつになっても楽しめる仕掛けが――いや、心がはしゃぐ驚きが至る所で待っている。
なにせ、ロイヤルブルーのスポーツカーは駐車場に入っただけのはずなのに、そこはもう物語の入り口。目を輝かせる
稲積 柚春に優しい笑みを向けながら、
ウォルター・Bは車を徐行させて楽しげな音楽に耳を傾けた。
どこか今までのドライブと勝手が違うのは、確かに変わった関係のせいだろうか。
こうして隣にいる彼女を、自分の『恋人』だと胸を張って呼べるようになった。ただそれだけで、世界はこんなにも鮮やかに見えるものなのかと幸せを噛みしめてしまう。
(……浮かれてるのは、僕かもねぇ)
まだまだ始まってもいないデートに苦笑して、車はパークホテルのエントランスへと到着した。
車と荷物をスタッフに任せると、2人は宿泊者だけが通れる特別ゲートへ向かう。
妖精が繋いでくれたようなゲートは、涼やかな魔法をかける音と光で現実との境界を越えた。
絵本そのままな建物も、漂う甘い匂いも。振り返ればそびえるホテルでさえ、妖精の王が住まう城にしか見えない。
「ね、ワット! 今日はどんなプランでいくの?」
胸が高鳴る。
どこを切り取っても非日常だけど、見えてるものも隣で笑う彼も、夢じゃないんだ。
(ワットとは、前にも来たことがあるけど……)
自分でデートプランを立てて、ショーもスリルライドも……恋愛の逸話も巡ったけど、彼は楽しんでくれていただろうか。今でも、デートとして思い出に残っているだろうか。
「そうだなぁ……じゃ、そこのカフェで休憩がてら作戦会議といこうか」
「え、でも混んで……えっ?」
彼が入園パスをかざすと、列整理をしていたスタッフが丁重にエレベーターへ案内してくれる。その先は限られた人しか入れない――つまり、VIP専用のテーブル席だ。
「ほら、柚春」
呆然と立ち尽くしてしまう柚春の手を取って、座席までエスコート。自然とやってのけるウォルターの顔はどこか得意げで、メニューを手渡されてもなお、柚春は半信半疑で瞬き返してしまう。
「誕生日なのに、待ってばかりもつまらないでしょ?」
視界いっぱいに広がる窓からパーク全体が見渡せる特別席。
ここには並ぶ人影もなく、所作の丁寧なスタッフがそっと控えているだけ。現実離れした待遇に、このままプリンセスにすらなれるのではないか――そう思ってしまって、胸の奥がじんわり熱くなる。
「さて、お嬢様。本日のご用命は?」
手に取った指先へキスを落とす彼が、昨日までと違う。人前でもこんなに自然に触れてくれるなんて。その事実が柚春の胸をくすぐって、緊張しかけていたことなどすぐに忘れてしまった。
「……特別あまーいのが食べたいな!」
キャラメルポップコーンより、チョコレートのかかったチュロスより、ストロベリーアイスの乗った肉球型のパンケーキよりも甘いもの。彼にしか用意できない、特別なもの。
期待して見上げるその瞳に、彼の瞳が一瞬だけ面白そうに細まったのがわかった。
何を意味するかは、あえて聞かずに――彼は「仰せの通りに」と嬉しそうに笑っていた。
そんな、甘ったるい香りが鞄の中まで充満しそうだ――柚春に連れられたカプセルギアの
ворは、内心で盛大な息を吐きながら聞き耳を立てるのを止める。
(……ほどってモンがあるだろ)
昨日までは教師と生徒で、超えられない壁があった。
見守っていた側としては憤るくらいにまどろっこしく、柚春を幸せにする気があるのかと問い詰めたことだって、少なくない。
ようやく壁が崩れ恋人となったのだから、喜んでやるべきだとは思うけれど、これを1日聞かされるのか。
自由にならない玩具の身体と、世界を作り上げてしまった2人へ、溜息を吐く。
(でも……ま、今日くらいはな)
彼女が幸せならそれでいい。静かに結論づけて、玩具として大人しく揺られてやろうと小さく笑った。
リクエストありがとうございます、浅野悠希です。
こちらは、稲積 柚春さんのプライベートが満載なシナリオです。
このシナリオでは『時の流れ』が設定されています。 ※プロフなど各種設定にご注意ください。
■年月日 :寝子暦1373年4月1日(木)~2日(金)※あくまでこのカレンダーは目安です。稲積さんの思う世界線のカレンダーをご使用ください。
■気象予報:お天気は夜まで快晴。夜更けには下弦の月が輝くでしょう。
概要 - 素敵な誕生日を過ごしましょう! というシナリオです。 -
※ このシナリオは、前後編の2部構成です ※前編:『この手で、君と。This is where we begin』
本シナリオ(後編)では、4月1日~2日(仮)の約2日間を中心に、NIKUKYU NYANDへの旅行風景を描きます。
※午前中のお好きな時間から描写できますが、入園後からがお勧めです!
■状況
ウォルターさんとバルミュラル城を出発した稲積さんは、夢の国『NIKUKYU NYAND』へ到着しました。大きな渋滞もなく、まだ午前中のうちに到着したため、閉園まで余裕を持って楽しめるでしょう。
NIKUKYU NYAND(ニャンド)
現在のニャンドは、『夢とハピネスの大陸』と『魔法とアドベンチャーの海』の2大テーマになっています。計15以上のエリアテーマで賑わう広大な園内は、バスや船、鉄道など移動系アトラクションも充実していて、雰囲気に浸りながらゆったりと巡ることができます。
4月のニャンドでは、イースターをモチーフにした可愛らしいイベントも開催中!
ショーやフード、アトラクションも一部限定仕様になっているようです。
今回は宿泊者専用のVIPパスを用意しています。
アトラクションは優先列から、ショーも特別席から、好待遇でパークを楽しめます。
さらにキャラクター演出のある体験型レストランも予約済み!
お食事の時間や内容は、当日の気分で選択可能です。
※アトラクション名などは適宜変更させて頂きますので、参考場所の名前そのままでも大丈夫です。
できること
基本的に制限はございませんので、素敵な誕生日を過ごして頂ければと思います。2人でデートコースを練っても良し、彼のエスコートを期待するも良しです。
一例として、こんなデートコースはいかがでしょうか?
> モデルケース
午前中 :ニャンド到着!幻想的な世界を散策するのもいいですね。
お昼過ぎ:そろそろアトラクションが恋しい? それとも思い出巡り?
夕方 :サンセットショーなどを楽しんで、チェックイン(パーク内のロイヤルスイート)
夜 :客室からは夜のドローンショーも鑑賞できますし、ナイトパレードの特別エリアで鑑賞しても。
翌朝 :ふたりきりでゆっくり? それとも朝からまたパークへ? ご自由にどうぞ!
などなど、こんな流れをベースにしても、まったく違うプランでもOKです!
ガイドに縛られず、申請いただいた内容も含めて自由にアクションしていただけますので、ご安心くださいね。
NPCとXキャラ - 申請時に指定頂いたシナリオは再送不要です -
今回登場とお伺いしてますのは、NPC:ウォルター・B
数時間前に恋人となったばかり。でもその覚悟は、突然ではなく……?
今日は稲積さんとの『デート』です。彼も浮かれてそうですよ。
NPC:メアリ・エヴァンズ
今回はお留守番ですが、思い出話を聞けることを楽しみにしているようです。
Xキャラ:緑林 透破(вор)
※通常シナリオと違い、Xキャラを単独で自由に動かすことができます。
※もしXキャラの描写量をPCやNPCに振り分けたいなど希望があればお知らせ下さい。
可能な範囲でにはなりますが、できるだけ対応致します。
※ 独自ルール ※ - こちらは他MSへ対応を迫る行為はお控え下さい -
浅野が担当するシナリオでは、 様々な短縮表記が可能 です。参照シナリオがある方、Xキャラと参加したい方、アイテムやイラストを参照してほしいなどありましたら、
『独自ルール』をご参考に短縮表記をされると、アクションの圧縮に繋がります!
※気になる方は、ぜひお気軽に利用してくださいね。
※今後は、基本的に参照シナリオを提示されない限りは、同じ世界線として扱いません。
寝子暦1372年の卒業式以前のシナリオは、問題なく『過去』として参照が可能なため、引き続き参照します。
それ以後は自主申告がないと、浅野側では別の世界線なのか同一世界線なのかを判別することができません。
そのため、 物語の隙間を埋めるような描写 を希望される際は『必ず』参照シナリオをご提示ください。
※過去参加して頂いた浅野のシナリオに関しても、記憶違いを避けるためにご協力頂けると助かります!
(そのため、1度お知らせ頂いた内容であっても、必要な場合は都度お知らせ願います)
※必須じゃないけど知っておいて欲しいなという事柄については、 少しであれば 確認させて頂きます。
※但し、こちらは全てに目を通すと確約をするものではなく、あくまで余力があればとなります。
それでは、よい1日をお過ごし下さいね!