白い空間に同色のタキシードを着た麗人が佇み、思考を巡らせていた。
――過去創造館は訪れた人々の人生に触れます。過去の選択を変えて違う未来を見せることができます。見せるだけで未来が変化することはありません。
一度、思考を中断。一方に向かって歩き始める。
――人生の大きな節目を多岐に渡って扱ってきました。館の権威に相応しい内容を追求した結果と言えます。
歩く先に木目の美しい床が現れた。木製のテーブルや椅子まで揃う。
そこで働くスタッフらしき人達も現出した。各々が背筋を伸ばし、向かい合わせの二列となって控える。その中央を麗人は靴音を立てずに颯爽と歩く。
――人々が利用し易い喫茶店を開店させます。壁は全て書架にしましょう。膨大な数の書籍がメニューの役割を果たします。
麗人は列の間を抜けて書架の前で足を止めた。背表紙のタイトルを眺め、一冊の書籍を抜き出した。パラパラと頁を捲って元のところに収める。
――高校が舞台となった恋愛小説でした。甘酸っぱい展開が豊富なのでイチゴを挟んだミルフィーユが頭に浮かびます。遊び心を加えてチョコレートでコーティングしましょう。書籍を模した形で提供してもいいですね。
書架の前を歩いて窓に行き着く。窓外は次元の狭間然として極彩色の空間が揺らめいていた。
――事前に書籍の情報を得れば過去として扱えます。物語の主人公となって体験することも可能です。タイミングは菓子を口にした時でしょうか。
方針が決まると口元に笑みが浮かぶ。
「今日も忙しくなりそうです」
麗人がくるりと回って両腕を広げると、一瞬で落ち着いた雰囲気の内装が完成した。館によって創造されたスタッフ達は開店準備に追われた。
桜の花弁は儚く散り、色鮮やかな新緑が輝き出す。
寝子島のキャットロードを軽装の人々が行き交う。気の早い店舗では夏物の衣類が売られ、流行に敏感な若者が押し寄せた。
綾辻 綾花と
早川 珪は恋人らしく手を繋ぎ、歩きながらショーウインドーを眺めた。
肩を露出させた水色のワンピースが綾花の目に入る。
「もう夏物が売られていますね」
「気になるならプレゼントするよ」
「少し派手なので遠慮します」
「それは残念。セクシーな姿を逃してしまった」
大袈裟に天を仰ぐ珪に綾花は照れ笑いを浮かべた。それとなく視線を逸らすと三角屋根の店舗に目が留まる。
綾花は手を繋いだまま扉に近付き、格子状の窓から店内を窺った。
「書架があります。あそこの壁もそうです」
「書店ではなさそうだ。テーブル席が幾つもあるね」
頷いた綾花は別の方向に目をやる。こじんまりとした二人掛けのソファを見つけた。一気に想像が膨らみ、頬が仄かに色付いた。
「……特別な席も用意されているみたいです」
恥じらうような小声で言った。
「少し歩いて喉が渇いた。寄っていこう」
「そうですね。初めてのお店なので楽しみです」
綾花と珪は笑みを交わし、扉を開けて入っていった。
今回のシナリオは『おかしなイラストキャンペーン』で見事、
権利を獲得された綾辻 綾花さんのイラストから発想を得た内容でお送りします。
オーバータイムを利用して二年後や五年後のPCで参加することもできます。
もちろんいつも通り、プロフィールに合わせた行動も可能です。
詳しい説明は下記をご覧ください。
☆☆☆ 今回の舞台 ☆☆☆
好天に恵まれた寝子島になります。平日や休日の指定はありません。PCに相応しい日時を選んでください。
店は夜の営業もしているので仕事帰りに立ち寄ることもできます。営業時間は午前八時~午後十時となっています。
☆☆☆ 店内の流れ ☆☆☆
お客様が訪れるとスタッフが速やかに対応。その際、お客様の人数や関係性を踏まえた席に案内してくれます。
連れて行かれた先にはメニューがありません。スタッフは書架に手を遣り、漏れなく試読を勧めてきます。
その後、気に入った一冊をスタッフに渡すと注文が完了します。運ばれてくる一品は本の内容を反映しています。
恋愛物は総じて甘い菓子になります。逆境物はビターテイストです。冒険物は豪快な見た目で食べ応えがあります。
PCらしさを強調したオリジナル物にも、是非、挑戦してみてください(マンガ肉風のバームクーヘン等)。
※GAの場合、選ぶ本は一冊になります。菓子は人数分、運ばれてくるのでご安心ください。
☆☆☆ 菓子の効果 ☆☆☆
菓子を口にすると本の内容が瞬く間に展開されます。
店内は一変して薄汚れた路地裏となり、銃撃戦に加わることもあるでしょう。
翼竜の背中に乗って大空を自由に飛翔。今日の食料を求めて狩りに専念する姿でPCらしさをアピールすることも。
冒険心に溢れたPCは未踏のダンジョンに挑み、待ち構えるモンスターや罠に果敢に挑戦します。
多数の異性に言い寄られたPCは窮地に立たされます。機転を利かせた見事な回避で更に異性に好かれる学園物も。
※PCの容姿を本の内容に合わせて変化させることができます。通常の姿も選べます。性別の変更も可能です。
☆☆☆ 過去創造館 ☆☆☆
別次元の高名な博士が作り上げた過去を創造する館です。次元移動が可能で今回は寝子島を舞台に選びました。
店内の飲食物は全て館が作り上げています。人間の五感に働きかけるので幻覚とは一線を画します。
館の案内役の麗人は裏方に徹しているので出会うことはありません。
☆☆☆ NPC&Xキャラ ☆☆☆
猫ぴょんの日よりも前の関係性を加味して、
妥当と考えられる範囲でNPCを自由に設定できます(恋人、夫婦など)。Xキャラも同じ扱いになります。
逆に関係性がない状態での登場はマスタリングの対象になります。ご注意ください。
XキャラはXキャラ図鑑を参照します。書き込みがない場合はアクションで簡単にお伝えください。
説明は以上になります。
久しぶりの過去創造館となります。
性別不明の麗人は裏方さんなので表には出てきません。
隠れたまま店内を見ているかもしれませんが。
元のイラストと掛け離れた内容ですが、子供も大人も思う存分、楽しんでください。
ただ、それだけです。それ以上に大事なことはありません(きっぱり)。
スイーツの美味しさに舌鼓を打ち、迎える展開で胸を打ち、鮮烈に残る記憶を掴み取れ!